
APCOT 2026 (The 12th Asia-Pacific Conference on Transducers and Micro-Nano Technology) は、2026年6月21日から24日にかけて台湾・台中市のThe Splendor Hotel Taichungにて開催された国際会議である。本会議は、センサ/アクチュエータ、MEMS/NEMS、マイクロ・ナノ加工、マイクロ流体デバイス、材料・実装技術など、マイクロ・ナノテクノロジーに関する幅広い研究分野を対象としており、アジア太平洋地域を中心に国内外の研究者・技術者が参加した。
会期中は、Plenary Speech、Oral Session、Poster Session等を通じて、基礎的な微細加工技術から、センサ、バイオMEMS、ソフトデバイス、ロボティクス応用に至るまで多様な研究成果が発表された。私は、2026年6月22日に開催されたOR1-1C Material, Fabrication, and Packaging 1のセッションにおいて、研究題目 “Kirigami-inspired 4D Printing” に関する口頭発表を行った。本発表は、Singapore University of Technology and Design(SUTD)との共同研究成果であり、国際共同研究として得られた成果をAPCOTの場で発信する機会となった。
本研究では、厚みを有する3Dプリント構造体に切り紙構造を導入し、印刷後に機械的外力を加えることで、複数の構造を一括して制御変形させるKirigami-inspired 4D Printingを提案した。従来の4D Printingでは、熱、湿度、光などの外部刺激に応答する材料を用いて構造体を3Dプリントし、その後刺激により形状変化を誘起する手法が多く報告されている。一方、変形速度や停止位置の制御が難しい場合があり、また安価な汎用3Dプリンタで再現性よく作製できる構造には制約がある。本研究では、材料応答そのものではなく、3Dプリント構造体に導入した切り紙形状とノッチ構造を用いて、機械的引張力により変形を誘起する点に特徴がある。これにより、変形の一時停止、反転、速度制御が可能な、機械的に制御可能な4D printing手法の実現を目指した。

発表では、3DプリントしたTPU(熱可塑性ポリウレタン)シートに対して切り紙形状を設計し、引張により伸縮変形および持ち上げ変形を誘起するType A、Type Bの構造や引張試験の結果を示した。特に薄いフィルムを用いた切り紙構造の変形挙動を厚い3Dプリントシートで再現するためのノッチ構造において、その厚みにより引張力に対する変形量が変化することを明らかにした。
質疑応答では、主に2点について質問を受けた。1点目は、Type Bの実験データにおいてばらつきが大きい理由についてである。これに対して、切り紙構造では引張力が小さい領域において変形挙動がばらつきやすいことに加え、3Dプリントにより作製した切り紙シート内部の材料物性や造形精度のばらつきが影響している可能性があると回答した。2点目は、従来のフィルム切断による切り紙構造と比較して、なぜ切り紙構造を3Dプリントにより作製する必要があるのかという質問である。質問に対し、3Dプリントにより単なる平面フィルムの切断では困難な厚み方向の機能構造を、同一工程で一体的に形成できることを説明した。例えば、Type Bの構造をグリッパへ応用する場合、フィルム切断のみでも可動機構は作製できるが、対象物を把持するための爪を同時に形成することは困難である。一方、3Dプリントを用いることで、基板、変形機構、デバイス機能を1回の造形工程で統合できる。この議論を通じて、本手法の新規性を、単なる切り紙構造の作製方法ではなく、変形機構と機能構造を一体化する製造技術として明確に説明する重要性を再認識した。
本会議への出席により、自身の研究成果を国際的な場で発信するとともに、研究テーマの位置づけや今後の展開について多くの示唆を得ることができた。発表後には、これまで国内外の学会で交流した先生方や学生とも再会し、研究内容について議論する機会を得た。私はこれまで切り紙構造に関連する研究発表を継続して行ってきたため、本発表についても「発表タイトルと発表者名を見て関心を持ち、聴講した」と声をかけていただく機会が複数あった。また、本会議においてKirigamiを含む発表タイトルは私の発表のみであり、特徴的な研究キーワードが国際的な関心を引くきっかけとなった。継続的な研究成果の発信により、研究テーマや発表者名が分野内で認識され、国際会議における研究交流へとつながることを実感した。
また印象に残った講演として、東京大学名誉教授の下山勲先生によるオープニングトークがある。下山先生は、MEMSおよびセンシング技術の分野で長年にわたり多大な功績を挙げられており、本講演では「MEMS×AI×Robotics」をテーマとして、フィジカルAIの発展に向けたMEMSセンサ技術の重要性について紹介された。講演では、AIそのものを主題とするのではなく、これまでに積み上げられてきた微細加工技術、センシング技術、およびロボット応用に関する研究成果を、フィジカルAIという近年の研究潮流にどのように接続できるかという観点から説明されていた。
この講演を通じて、自身の研究テーマを説明する際にも、単に流行しているキーワードに寄せるのではなく、これまでに取り組んできた切り紙構造や4D Printingに関する技術的蓄積を軸として、その強みを新しい研究潮流や応用分野にどのように接続するかを明確に示すことが重要であると感じた。本研究はSUTDとの共同研究であり、APCOTでの発表を通じて国際共同研究としての成果を発信できた。今後は、フレキシブルエレクトロニクスやソフトロボティクスへの具体的な応用を検討し、応用研究においても国際的な共同研究へと発展させたい。
本助成により、国際会議において自身の研究成果を発表し、海外研究者との質疑応答や研究交流を行う貴重な機会を得ることができた。ここに、一般財団法人丸文財団ならびに関係者の皆様に深く感謝申し上げる。
