国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和8年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
岡村 直哉
(岡山大学)
会議名
IEEE Energy Conversion Congress & Expo 2026 (ECCE 2026)
期日
2026年10月4日~8日
開催地
カナダ バンクーバー

1. 国際会議の概要


会場(コンベンションセンター)

IEEE Energy Conversion Congress & Expo (ECCE)は、IEEE Power Electronics Society (PELS)とIEEE Industry Applications Society (IAS)が共同で開催するエネルギー変換技術に関する国際会議であり、パワーエレクトロニクス分野における最大規模の国際会議の一つである。毎年アメリカまたはカナダで開催されており、今年はカナダ・バンクーバーにて10月4日から8日にかけて開催された。

ECCEでは、電力変換回路のトポロジーや制御、パワー半導体デバイス、電気機器、系統連系、輸送電動化など広範な研究領域において論文募集が行われている。
会議は、初日のチュートリアルに続き、2日目からはoral session、poster sessionで構成され、会期中には企業展示も併催された。発表件数は口頭発表472件、ポスター発表595件の計1,067件であった。

今回の会議で特に目立ったのは、AIデータセンタ向けの電力供給技術である。生成AIの普及に伴いデータセンタの消費電力が急増していることを背景に、従来の交流配電に代わる800V DC power distribution architectureが主要なトピックの一つとなっていた。チュートリアル、oral・poster sessionのいずれにおいてもAIデータセンタの800V DC配電に関する技術が多く報告され、産学双方からの関心の高さがうかがえた。

筆者は、800V DC配電の中核機器であるソリッドステートトランスフォーマ(SST)などにも用いられる、大電力用次世代パワー半導体モジュールのパッケージング技術および特性評価に関する研究に従事している。本会議には、昨年度に引き続き研究成果を投稿して採択され、今年度は口頭発表を行った。

2. 研究テーマと討論内容

電気自動車や再生可能エネルギー、データセンタなどでは、電力を必要な形(電圧・周波数)に変換する「電力変換器」が欠かせない。電力変換器の中では、電気の流れを高速にオン・オフする「スイッチ」が電力変換の役割を担っており、このスイッチとして広く用いられている半導体素子がMOSFETである。MOSFETはゲートと呼ばれる端子に加える電圧によって電流のオン・オフを制御でき、これを1秒間に数万回から数十万回繰り返すことで電力を変換している。

近年、従来のシリコン(Si)に代わる材料として,炭化ケイ素(SiC)を用いたSiC MOSFETが注目されている。SiCはSiと比べて高い電圧に耐えられ、損失が小さく、高温でも動作できるため、大電力用途に適した次世代パワー半導体デバイスである。ただし、SiC MOSFETは1つのチップが数ミリ角程度と小さく、単体で流せる電流には限りがある。そこで実際の大電力用途では、複数のチップを1つのパッケージ内で並列に接続し、配線や放熱構造とともに一体化した「パワーモジュール」として使用される。

筆者は、このSiC MOSFETを用いたパワーモジュールを、いかに高速かつ安定に動作させるかという技術について研究している。大電力を扱うためにはモジュール内で多数のチップを並列接続する必要があるが、チップ同士の配線のわずかな違いにより、各チップに流れる電流に不均一(アンバランス)が生じる。この電流のアンバランスは、スイッチング時にチップ間でノイズ(振動)を発生させ、これがゲートに伝わることでMOSFETが意図せずオン・オフしてしまう誤動作につながる。SiC MOSFETは高速にスイッチングできることが利点であるが、高速になるほどこのノイズの影響は大きくなり、高速化と安定動作の両立が大きな課題となっている。

本発表は"Inter-Chip Multi-Resonance Modes Extraction at Turn-off Switching of SiC Multichip Power Modules"と題し、多並列SiCパワーモジュールのターンオフ時にチップ間で発生する複数の共振モードを抽出する手法について報告した。提案するモデル化技術を用いることで、大電力パワーモジュールの誤動作の根本原因、すなわちノイズの正体を予測できることを示した。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

本会議への参加を通して、パワーエレクトロニクス分野における現在の研究動向を直接知ることができた。冒頭で述べたAIデータセンタ向け800V DC配電をはじめ、各国の大学や企業がどのような課題に注目しているのかを肌で感じられたことは、自身の研究の位置付けを見直し、今後の研究の方向性を考えるうえで大きな収穫であった。

口頭発表に向けては、研究室内で練習を重ね、専門の異なる聴衆にも伝わるよう資料の構成や図の見せ方、説明の順序を工夫した。その結果、発表自体は準備した内容を落ち着いて伝えることができた。一方、質疑応答では一部の質問者の意図を十分に汲み取れず、議論を深めるまでには至らなかった。そこで、その後のバンケットで質問者を探して声をかけ、1対1で改めて議論を行い、発表の場では伝えきれなかった部分を補足した。

また、バンケットでは様々な国の研究者や学生と交流する機会を得た。研究内容だけでなく、カナダでの滞在期間中の生活についても話すことができ、国際交流の貴重な経験となった。

最後に、本会議への参加にあたり、一般財団法人丸文財団に多大なるご支援を賜りましたことに深く感謝申し上げます。

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