国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和7年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
和田 大河
(同志社大学 大学院理工学研究科 電気電子工学専攻)
会議名
2025 IEEE International Ultrasonics Symposium (IEEE IUS)
期日
2025年9月15日~18日
開催地
Jaarbeurs Event & Exhibition Centre, Utrecht, Netherlands

1. 国際会議の概要

IEEE International Ultrasonics Symposium (IEEE IUS)は、IEEE Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control Societyが主催しており過去50年以上の歴史をもつ超音波技術に関する世界最大級の国際会議です。医用超音波、非破壊検査、物理音響、超音波センサ・材料開発など幅広い分野を対象に、例年、世界各国から1,500名ほどの研究者が参加し、1,000件以上の口頭およびポスター発表が行われ、最新の研究成果が発表されることからエレクトロニクス分野でも重要な国際会議の一つに位置付けられています。

今回で第62回目となる会議は、オランダ・ユトレヒトの Jaarbeurs Event & Exhibition Centreにて、2025年9月15日から18日までの4日間にわたり開催されました。例年通り1,500名を超える研究者が参加し、10の異なる分野にわたるオーラルセッションおよび16分野にわたるポスターセッションが連日活発に行われました。

次回、第63回 IEEE IUS はアメリカ・ノースカロライナ州ローリーにて、2026年10月4日から8日まで開催される予定です。


学会会場

オープニングセレモニー

2. 研究テーマと討論内容

本会議は4日間にわたりオーラルセッションとポスターセッションが行われ、私は最終日に、“Ultrasonic Wave Velocity and Bone Mineral Density of Mouse Bone in Post-Senescence Period”というタイトルでポスター発表を行いました。

日本をはじめとする先進国では少子高齢化が急速に進行しており、高齢者人口の増加が社会問題になっています。特に高齢者の骨折は、QOL(Quality of Life)の低下のみならず、寝たきり状態や予後不良を招くリスクが高く、骨折後5年以内の死亡率が約50%に達するとの統計的な報告もあります。また高齢者における骨折リスクの主要因として、骨粗鬆症による骨の脆弱化が挙げられますが、特に原発性骨粗鬆症(加齢や閉経などの生理的変化が起因)への対策が重要です。現在、骨粗鬆症診断では、X線法で計測可能な骨カルシウム密度(BMD)や、骨折経歴の有無が主要な指標となっています。しかし、BMDが正常範囲であるにもかかわらず、椎骨や大腿骨近位部などの荷重骨で骨折が生じるケースもあり、近年ではBMDだけでなく骨の質の評価が注目されています。その一つとして骨の弾性を評価するパラメータ―として超音波の伝搬音速があります。


ポスターセッションの様子

そこで本研究では高週齢(ヒトの約80歳に相当)マウスを用いて、骨の評価(BMDおよび骨中音速)を行ないました。具体的には、マウス脛骨の ex-vivo 試料を対象としました。骨の微細構造を考慮し、顕微 Brillouin 光散乱法を用いた計測を実施しました。本手法はX線CTに匹敵する空間分解能を有し、不均一な骨中の音速をミクロスケールで評価できる点に特徴があります。本発表では、この手法とCTの結果を組み合わせて骨の変化を検討しました。

ポスター発表時には多くの方々がおいでになり、質問やコメントをいただきました。 具体的には、①Brillouin光散乱法による音速測定値と臨床応用されている超音波測定との対応関係、②骨中音速が骨微細構造のどの因子(コラーゲン配向、ミネラル密度など)に最も敏感であるか、③本研究で使用した高週齢マウス骨における脆弱性評価の妥当性、④将来的なヒトへの臨床応用の可能性、などに関するものでした。また議論を通して、本研究の価値や他の研究との関連をより明確にするとともに、次の研究課題としてCTで得られる骨構造のパラメータと、音速の統合的解析や、ヒト検体との比較の重要性を再認識することができました。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

このように発表では、様々な分野の研究者の方々から多角的な視点でご意見をいただき、大変刺激を受けるとともに、自身の研究を新たな視野から見直す貴重な機会となりました。本会議は超音波技術に関する最新の研究成果や技術について深く議論できる場であり、私自身の研究成果の新規性やインパクトを国際的にアピールすることができたと考えております。

本会議では必ず骨の超音波計測に関するセッションが設けられており、この分野の世界的な研究動向を把握することができます。今回、オーラルセッションでは、同済大学の頭蓋骨の複雑性に着目し経頭蓋超音波集束の効率・精度向上を実証した研究や、デルフト工科大学の皮質骨の軸・径方向における超音波音速を測定し、骨質評価と異方性解析を実証した研究などが発表されました。これらは私自身の研究内容とも高い親和性を持つものであり、今後脚部だけではなく頭蓋や、骨の異方性に関する知識が深まりました。


レセプションパーティーの様子

なお、本会議にはPh.D.学生、ポスドク研究員、若手助教など多くの若手研究者が参加しており、その活躍を目の当たりにすることで、自身の研究への強い意欲を新たにしました。実際、セッション以外においても、学会が主催する学生交流会やレセプションパーティーなどが開催されます。これらの交流の場では、各国の学生と交流することができ、国ごとに少しずつ異なる研究環境について、話し合いました。また、各国の研究者の方々とも直接研究内容について具体的な意見交換を行うことができました。拙い英語であっても、ボディランゲージや熱意をもって臨めば十分に思いが伝わることを身をもって実感できたことも、大きな収穫の一つでした。

最後に、ご支援を賜りました一般財団法人 丸文財団の皆様に心より感謝をいたします。

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