本国際共同研究は、身体拡張技術の一環として開発が進む「余剰肢」を持つ手アバタに対し、人々がどのような社会的受容性を示すかを解明することを目的とした。本研究は、豊橋技術科学大学とフランスの研究機関(LIRMM)の連携による国際共同研究であり、日本とフランスという異なる文化的背景を持つ参加者を対象とした国際比較を目指している。
近年、ロボティクスやバーチャルリアリティ(VR)技術の発展に伴い、身体機能を代替・拡張する研究が急速に進んでいる。しかし、従来の身体拡張に関する研究の多くは、操作性の測定・向上や身体性認知(拡張身体が自分の身体の一部として感じられるか)に注目していた。これらの要素は基礎的な技術基盤として重要な点であるが、将来的に拡張身体技術が社会実装される段階を見据えたとき、使用者に加えて周囲の人々にどのように受け入れられるかという、第三者視点を含めた社会的印象の解明が不可欠である。
そこで本研究においては、余剰肢を持つ拡張手アバタのデザインが人々に与える印象に着目した。具体的には、拡張手アバタのデザインが喚起する、痛みの印象・機能性・人らしさについて、使用者自身の評価だけでなく、他者からの評価についても定量化する。
また、本研究は、上記の社会的受容性が、文化圏によってどのように変容するかを調べる。異なる文化・社会的土壌において比較実験を行うことで、余剰肢に対する受容性の差異や共通項の文化的要因を解明できグローバルな展開が可能となる。本研究の成果は、グローバルな視点からロボティクスや情報工学技術が安心かつ安全な形で社会に受容されるための基盤を築き、それらの社会実装に寄与する。

現地では、拡張された手アバタに対する社会的受容性を検証するための二つの心理実験の実施と、その環境構築を行った。実験は、参加者がVR空間内で拡張身体アバタの使用者となり、身体性や操作性の評価を行う「1PP(一人称視点)実験」と、他者が拡張身体を使用している様子を第三者視点から観察し、そのデザインや振る舞いに対する社会的印象を評価する「3PP(三人称視点)実験」の2つから構成された。
今回の渡航期間中においては、特に社会的受容性の評価に主眼を置くため、3PP実験を優先的に実施した。実験では、現地の学生やスタッフなど、フランスの文化的背景を持つ参加者を広く募り、データ収集を行った。結果、現地スタッフの協力により、約2週間の滞在期間中に合計21名分のデータを収集することができた。また、使用者視点から評価を行う1PP実験についても、来月(2026年1月)以降に予定されている実験実施に向け、現地の設備に合わせた機材のセットアップを行い、動作確認を兼ねて数名の参加者を対象に実験を行った。加えて、実験実施と並行し、共同研究先の指導教員と収集したデータの解析手法について議論を行った。本研究の実験では、質問紙による主観評定だけでなく、生理指標(瞳孔径)による評価も行うため、データの特性などを考慮した、適切な前処理の手法などを議論した。
海外への渡航は、昨年行ったイギリスでの学会発表に続き2回目であったが、半月以上の長期滞在は初めての経験であった。
現地到着後、体調を崩してしまうアクシデントがあったが、現地の先生や学生に食料の買い出しなどをサポートしていただき、図らずも彼らとの密なコミュニケーションを取るきっかけとなった。
研究においては、自身の語学力不足から身振り手振りを交え、意思疎通を図る場面も多々あった。現地の方々がこちらの意図を汲み取ろうと、熱心にコミュニケーションを取ってくださったこともあり、無事実験は実施できたものの、より密な議論を交わすには自身の語学力向上が不可欠だと感じた。また、共同研究先のLIRMMは非常に多国籍で、軽食を囲みながら円卓で会議を行うなど、日本とは異なるフランクな交流スタイルに驚いた。
生活面では、民泊での生活やスーパーマーケットでの買い物を通じ、現地の生活文化や、石造りの街並みといった地理的な文化差を肌で感じることができた。同時に、物価や治安の面では、日本の暮らしやすさを再認識する機会となった。今回の渡航ではいくつかトラブルがあったものの、周囲の協力を得ながら無事に乗り越えられたことは、大きな自信となった。
最後に、本研究の実施にあたり、貴財団より温かいご支援をいただきましたこと、心より御礼申し上げます。


