SPIE Photonics West は、フォトニクス分野においてCLEOなどと並ぶ世界最大級の国際会議の一つであり、毎年1回、米国サンフランシスコにて開催されている。本会議は、光科学・光技術に関する基礎から応用までを広く網羅しており、学術研究者のみならず、企業研究者や装置メーカーも多数参加する点が大きな特徴である。
本学会は大きく複数の分科会に分かれており、会期前半の約3日間に開催される「BIOS」は、光技術を基盤としたバイオイメージング、医用光学、顕微鏡技術に特化した分科会である。私の専門は、最先端光技術を用いた顕微鏡システムの開発と、それを用いた生命科学・生物学応用であるため、このBIOSは自身の研究分野と最も密接に関連するセッションであり、世界的にも最先端の研究成果が集積する場であると言える。一方、会期後半では、レーザー光源開発やレーザー加工、光物性など、より物理・工学寄りのセッションが中心となる。
私は 2024年、2025年、2026年と3年連続で本学会に参加しており、開催地や会場構成も毎年ほぼ共通であることから、研究分野の動向を継続的に把握する場として、非常に馴染み深い国際会議となっている。複数年にわたって参加することで、単年では見えにくい研究トレンドの変化や、技術開発から応用研究への重心の移行などを俯瞰的に捉えることが可能となっている。
BIOSの中でも、私の研究テーマと最も深く関わるセッションは Advanced Chemical Microscopy for Life Science and Translational Medicine 2026 であり、会期前半の3日間は主にこのセッションに参加した。本セッションでは、中赤外吸収やラマン散乱などを利用して化学コントラストを取得する顕微イメージング技術の開発、およびそれらを生命科学研究やトランスレーショナル・メディシンへ応用する研究が数多く報告された。
例年と比較すると、純粋な光学・計測技術の新規開発に関する発表はやや少なく、病理診断や疾患解析への応用を強く意識した研究など、実用・応用指向の発表が増加している点が印象的であった。これは、本分野の技術が成熟しつつあり、基礎技術から臨床に向けた研究へと移行しつつあることを示唆している。
また、併設された企業展示(写真参照)も非常に充実しており、最新のレーザー光源、検出器、光学素子、システム統合技術などについて、研究論文だけでは得られない実装レベルの情報を直接収集することができた。これらの情報は、今後の装置開発や研究計画を立案する上で重要な知見となるものである。

私は「Label-free intracellular thermophoretic imaging with vibrational photothermal microscopy」という題目で、1月17日に Advanced Chemical Microscopy for Life Science and Translational Medicine 2026 セッションにおいて口頭発表を行った。本研究では、中赤外光を用いた新しいラベルフリー顕微鏡技術を用いて、細胞内の熱ダイナミクスおよび分子輸送現象を可視化・定量化することを目的としている。
私は、超解像中赤外顕微鏡の開発を専門としており、本研究では、中赤外吸収によって生じる局所的な温度上昇に伴う屈折率変化を、可視光干渉計測によって高感度に検出する手法を用いている。この手法により、従来は中赤外光の回折限界(約5 µm)によって制限されていた中赤外顕微鏡の空間分解能を、可視光の回折限界(数百 nm程度)で決まる領域まで大幅に向上させることが可能となった。
本顕微鏡は、分子の赤外吸収に起因する温度上昇を直接捉えることができる点に特徴があり、単なる化学コントラスト取得にとどまらず、温度に関わる動的な物理過程を可視化できる。従来、化学顕微鏡(chemical microscopy)として発展してきた中赤外顕微鏡の応用範囲を、熱ダイナミクスの計測へと拡張する試みである。
特に本研究では、温度勾配によって細胞内分子が移動する 熱泳動(thermophoresis)に着目し、細胞内部における分子移動の様子をラベルフリーで捉えることを実証した。将来的には、本手法を用いて、分子の「移動しやすさ」や拡散・輸送特性を定量化することで、細胞内の物理環境や状態変化を評価する新たな計測手法へと発展させることができると考えている。
発表自体は概ね順調に進み、技術的な新規性や計測原理については一定の関心を集めることができた。一方で、今年度の本セッションでは、例年と比較して基礎生物学寄りの研究よりも、病理診断や臨床応用を強く意識した医学応用志向の発表が多く、必ずしも十分な時間をかけた専門的な討論が行えたとは言い難かった。そのため、基礎計測技術としての位置づけや、生命科学研究への長期的な展開について、より深い議論を行う機会が限られていた点は今後の課題であると感じた。
本学会では、3年連続での口頭発表となったこともあり、英語でのプレゼンテーションおよび質疑応答において、これまでと比べて大きな心理的・技術的負担なく発表を行うことができた。発表内容についても聴衆の理解を得られている手応えがあり、質疑応答においても質問の意図を正確に把握した上で、落ち着いて対応することができた。
質疑では、本研究手法がbiomolecular condensateの形成やダイナミクス解析といった応用に利用できるのではないか、という指摘があり、自身では十分に掘り下げられていなかった応用可能性を示唆される非常に有益な議論となった。基礎的な光学・計測技術としての位置づけだけでなく、生命科学的な現象理解へと研究を展開する上での新たな視点を得ることができた。
また、本会議を通じて、類似した計測・イメージング技術を開発しているドイツの研究室の研究者と直接交流し、技術的な詳細や現在直面している課題について議論を行うことができた。論文だけでは把握しにくい実験上の制約や未解決の問題点を共有できたことは、今後自身の研究を発展させる上で非常に有益であり、国際会議ならではの直接的な意見交換の重要性を改めて実感した。
さらに、将来的に研究員として所属することを検討している海外研究室の主宰者(PI)が偶然本会議に参加しており、約1時間にわたって研究内容および今後の研究展開について集中的な議論を行う機会を得た。現在、自身の研究テーマについて方向性の一部を見直そうと考えているが、その構想について意見交換を行い、研究の軸として十分に成立しうる形に整理することができた。この議論を通じて、今後のキャリアパスや研究戦略を具体化する上でも重要な示唆を得ることができた。
以上のように、本国際会議への参加は、研究成果の発信にとどまらず、国際的な研究交流、将来の共同研究やキャリア形成に直結する議論の機会を得るという点でも、大きな成果をもたらした。
下図は3日目に行われたレセプションであり、このレセプションもこの学会の名物となっている。

