国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和7年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
田内 良太
(東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻)
会議名
2025 IEEE Wireless Power Technology Conference and Expo (WPTCE 2025)
期日
2025年6月3日~6日
開催地
Engineering Faculty, Sapienza University, Rome, Italy

1. 国際会議の概要


当研究室からの参加者集合写真
(右から藤本教授、藤田特任講師、当研究室学生2名、
報告者、清水准教授(推薦者)、当研究室学生)

アメリカ電気電子学会(IEEE)が主催する国際会議「2025 IEEE Wireless Power Technology Conference and Expo (WPTCE 2025)」に参加し、口頭発表を行いました。本会議は、無線で電力を伝送するワイヤレス給電(WPT)の技術に関する世界最大級の国際会議であり、最先端の研究成果から製品への応用を見据えた実用的な発表や展示が多数行われました。

会議初日には、WPTに関する最新の研究動向について、各国の著名な研究者や企業関係者による講演が行われました。中でも特に印象深かったのは、アメリカ・パデュー大学における走行中ワイヤレス給電(DWPT)の社会実装に向けた取り組みです。DWPTとは、走行中の電気自動車(EV)に対してWPTを行うことで、バッテリーを継続的に充電する技術ですが、その実現には送電用のコイルを道路下に多数埋設する必要があります。

パデュー大学のDionysios Aliprantis教授の研究室では、すでに複数の大学や企業と連携し、アメリカの公道で送電コイルを埋設する実証事業を進めていました。また、送電コイルだけでなく、それを制御・駆動する各種電気機器の設置も行っており、DWPTの社会実装が決して夢物語ではないことを実感しました。

本会議には、イタリア、中国、ニュージーランド、アメリカなど、世界各国から研究者が集い、日本からも多くの研究室が参加していました。このような国際的な場で自身の研究成果を発表することができたことは、日本の技術力を世界に発信する貴重な機会となりました。

2. 研究テーマと討論内容

会議では、「Vehicle Steering Control with Lateral and Angular Misalignment Estimation Based on Receiver Current in Dynamic Wireless Power Transfer」という題目で、DWPTにおける角度ずれ解消を目的とした研究の成果発表を行いました。

DWPTとは、路面下に埋めた送電コイルから車両側に取り付けた受電コイルへと無線で電力伝送を行うことで、走行中でも電気自動車がバッテリーの充電を行うことができる技術です。しかし、ドライバーの運転中のふらつきなどによって発生するコイル間のずれ、特に横方向や角度のずれが、給電効率の低下や給電機会の減少につながるという問題があります。そのため、このような位置ずれの解消は必要不可欠です。先行研究では、受電側の回路に流れる電流の大きさを利用して横ずれを推定し、それを解消するための車両制御手法が提案されていましたが、直進状態のみを想定しており、DWPTレーンへの車線変更など角度のずれが顕著に現れる場面では、制御がうまく機能しないという課題がありました。


学会発表中の報告者の様子

そこで私の研究では、新たに角度のずれも含めた推定手法を提案しました。本手法では、受電側電流による横ずれの推定値を活用し、送電コイルに対する受電コイルの横ずれと角度ずれの幾何学的な関係を利用することで、理論的に角度ずれを推定することができます。さらに、本手法はフルスケールの実験用車両を用いた実験で有効性が確認されており、発表の中でも特に実車による検証が大きな注目を集め、発表後には多くの方からご質問をいただきました。

これらの成果は、DWPTにおける位置ずれ問題の解決に向けた研究の進展に貢献するものであり、ひいてはエネルギー・環境エレクトロニクス分野における学術研究のさらなる発展にも寄与することが期待されます。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

本会議では口頭発表のセッションだけでなく、ポスター発表のセッションもありました。ポスターセッションでは、WPT分野の技術に精通したニュージーランド・オークランド大学の研究室の方々と個別に意見交換を行いました。同研究室はWPTに関する研究で世界的に高い評価を受けており、私の所属する研究室と同様に、大規模なDWPTの実験を実施していることで知られています。このような第一線の研究者と直接意見を交わすことができたのは、今後の研究の方針やさらなる改善案の具体化に向けたアイデアの種を生むための非常に貴重な機会となりました。

また、本会議では、世界各国の主要なWPT研究機関による最新の研究動向に触れるとともに、自身の研究を専門ではない参加者にも分かりやすく説明するスキルを磨く機会にもなりました。質疑応答では、提案手法の応用可能性や実験条件の妥当性、さらなる検討課題などについて具体的な質問を多数いただき、今後の改良や応用の方向性に関して多くの示唆を得ることができました。

最後に、本会議の参加のために多大なご支援をいただいた一般財団法人丸文財団に厚く感謝御礼申し上げます。

4. 追記
(開催地の様子)


コロッセオ
(学会会場から徒歩5分ほどで行ける距離でした)

今回のWPTCE 2025はイタリアの首都ローマで開催されました。会場となったサピエンツァ大学の近くにはコロッセオやフォロロマーノといった遺跡があり、古代ローマ帝国の雰囲気を肌に感じながら学会に参加することができました。

また、次回開催地はカナダのハリファクスという海岸沿いの都市で開催されるそうで、来年度もまた素晴らしい国際学会となることが期待されます。

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