環太平洋国際化学会議は、環太平洋地域の日本、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、韓国、中国の7カ国の化学会が共同で主催し、5年ごとに開催される世界最大級の化学分野の国際会議である。発表分野は分析化学、無機化学、有機化学、物理化学、生物化学など多岐にわたる。本大会の参加者は14,000人以上に上り、国際会議としても世界最大級である。本研究集会の目的は、化学全般の最先端の研究成果を発表し国際的な学術交流を深めることである。特に、上記7カ国に限らず、世界70カ国以上から研究者が参加し、国際交流を深める非常に有意義な機会である。また、規模の大きな研究集会ではあるが、専門分野ごとに独立して大小さまざまなシンポジウムが開催されているため、自身と専門の近い研究者と密に議論を行うことができるという特徴がある。さらに、世界中から各分野の著名な研究者が参加しており、これまでの研究の背景や経緯に触れ、自身の研究意欲を高める機会となり得る。
「トロポロンを基盤としたホウ素錯体の凝集誘起発光特性」という発表演題で、凝集誘起発光(AIE)特性を示す新奇化合物の合成と光学特性についてポスター発表形式にて報告を行った。
7員環化合物であるトロポロン(Tp)は芳香族性の寄与により分子内分極を示す。単純なトロポロンホウ素錯体(TpB)は、Tpと比較して発光量子収率が飛躍的に向上することや芳香族性の増大によって分極が大きくなることが明らかとなっている。また、TpBを主鎖に含む共役系高分子はさらに高効率での発光を示す。一方、これらの高分子は薄膜状態で量子収率が大きく低下するため、凝集状態において高効率発光を示す分子の開発が望まれている。ここでAIE分子は、溶液中では分子内回転・振動などの分子運動による失活で発光効率が低下する一方、分子運動が抑制される凝集状態において高い発光性を示す。そこで、TpBの7員環上にフェニル基を導入したところ、AIE性の付与に成功した。ヨード体を原料としたクロスカップリング反応により、種々の置換基を持つフェニル誘導体を導入することが可能である。いずれの置換基を持つ場合も、溶液中ではフェニル基の回転運動による無輻射失活が優勢となる。一方、結晶状態においてはフェニル基部位の電子供与性が高いほど発光性が向上することが明らかとなった。この特性を応用することで高分子を含む様々なAIE分子の合成が可能となることから、本会議において成果発表を行った。
質疑応答では主に、AIE特性の起源について討論を行った。AIE発見当初は分子運動による熱失活が最大の要因と考えられていたが、近年の研究ではより高度な電子構造や振電カップリングなどとの関連が明らかになりつつある。本研究におけるAIE性分子についても、その電子構造との関連や、実験事実を再現可能な量子化学計算の計算条件について、専門の方の意見を伺い、自身の分子について理解を深めることができた。
12月のホノルルは雨期であり、何度かスコールに見舞われることがあったものの、非常に温暖で過ごしやすい気候であった。現地在住日系人や日本人観光客が非常に多く、外国にいるという感覚は薄いように感じた。本学会のポスターセッションはドリンク・フードを片手に討論するという非常にカジュアルな形式で、打ち解けた雰囲気で気軽に話すことができた点が印象的である。AIEを発見された中国のTang先生にポスター発表を聞いていただき、自身の研究を評価いただけたことは素晴らしい経験になった。その他にも、日本人や韓国人の研究者の方と討論を行い、様々な知見をいただけたことで、視野が広がり今後の研究をより良いものにしようという意識が高まった。また、世界各国の研究者の方の発表を聴講し、英語で討論を行ったことで、実践的な英語が身に付いたと感じている。
