
貴財団の支援のもと、American Physical Society (APS) Global Physics Summit 2026にて口頭発表を行った。APSが主催する本学会は、物理学分野における世界最大級の研究集会として広く認識されている。今回も世界各国から約14,000名もの研究者・学生が参加し、会場は非常に活気に満ちていた。大学・研究機関に加え、企業研究所や国立研究機関からも多数の研究者が参加しており、産学双方の観点から最先端研究を議論する重要な国際的プラットフォームとなっている。
特に二次元層状物質(2D materials)に関する研究発表は非常に多く、常時6〜8件程度の関連セッションが並列で進行していた。そのため参加者は、自身の興味分野の講演を事前に調査したうえで、分刻みで会場間を移動しながら聴講する必要があった。著名研究グループの講演では立ち見が出るほど聴衆が集まる一方、講演終了と同時に多くの参加者が次のセッションへ移動する場面も見られ、国際会議特有の緊張感も感じられた。
二次元層状材料(2D材料)の van der Waals(vdW)積層構造は、格子整合条件に制約されることなく異種材料を自由に組み合わせることができ、さらに原子レベルで平坦かつ清浄な界面を形成できる。そのため、従来のⅢ-Ⅴ族半導体におけるエピタキシャル成長デバイスを超える新規量子デバイスの実現が期待されている。今回の講演では、二次元層状半導体である ReX2 (X = S, Se)を用いた vdW トンネル接合デバイスについて報告した。
ReX2 では伝導帯下端がΓ点近傍に存在しており、ReX2/h-BN/ReX2 トンネル接合において、Γ点間での運動量保存を伴う共鳴トンネル現象が期待される。本研究では実際に、共鳴トンネルに起因する急峻な負性微分抵抗(NDR)を観測した。さらに、ReS2 デバイスがReSe2 デバイスと比較して室温特性やピーク・バレー比(PVR)の点で優れていることを示し、外部インダクタと組み合わせることで発振動作を実現したことを報告した。
質疑応答では、チェアの研究者から「本当に運動量保存が起きていると言えるのか」という質問を受けた。これに対して、運動量保存が存在しない場合には電流‐電圧特性は単調になること、実験では明瞭なNDR特性が観測されていることから、運動量保存を伴う共鳴トンネルが支配的であると考えられることを説明した。
また別の研究者からは、「ツイスト角依存性は存在しないのか」という質問を受けた。これに対して、h-BN層数を変更した複数のデバイスにおいても同様のNDRが観測されていること、さらにΓ点の電子状態は面内運動量がほぼゼロであるため、ツイスト角に依存せず運動量保存条件を満たしやすいことを説明した。


本学会に参加するのは昨年度に続き2回目となるが、アブストラクト提出のタイミング(10月)および発表時期(3月)が、研究を進める上で良いペースメーカーとして機能している。特に本学会では、出版論文レベルの完成度を持つ研究発表が多く、一年に一本論文を投稿することを意識した研究計画を立てる上でも大きな目標となっている。今回も本学会での発表を目標として研究を進めた結果、良い成果を得ることができた。
発表後の2分間の質疑応答では、2名の研究者から質問を受けた。私の発表は、運動量保存を伴う負性微分抵抗(NDR)と、それを利用した発振動作という二段階の内容で構成されていたが、質問内容はいずれも運動量保存そのものに関する本質的な物理に関するものであった。応用面よりもむしろ、物理現象そのものに対しても強い関心が持たれていることを実感した。また、自身の研究のどの部分に特に興味を持たれるのかを知ることができ、今後の論文執筆や研究の方向性を考える上でも大変参考になった。さらに、質問はいずれも本質的かつ鋭い内容であり、自身の理解を深める良い機会となった。
さらに、発表後の休憩時間には米国の研究機関の研究者から声を掛けられ、vdWヘテロ接合デバイスに興味があるとして、今後の共同研究の可能性について議論を行った。国際学会において、自身の研究を通じて新たな研究交流の機会を得られたことは、大きな成果であった。
