
ヨーロッパ応用超伝導会議(EUCAS)は、超伝導材料およびその応用技術に関する分野で、世界的に最も重要な国際会議の一つである。1993年の第1回開催以来、おおよそ2年ごとに定期的に開催されており、ヨーロッパをはじめ、米国、中国、日本、韓国など各国から毎回1,000人を超える研究者・技術者が参加している。
本会議では、核融合に代表されるエネルギー応用をはじめ、超伝導量子コンピュータなどの量子応用、超伝導の基礎物性、新規材料の開発、さらには冷凍機や医療機器における応用技術など、極めて幅広いテーマが取り上げられる。最新の研究成果を国際的に発信し、世界各地の研究者との議論を通じて超伝導技術の発展と社会実装を促す場として、EUCASは極めて重要な役割を果たしている。
2025年は9月21日から24日にかけて、ポルトガルのポルトで開催された。発表形式は口頭発表とポスター発表の2種類があり、会場では活発な議論が行われた。特に今回は、コーヒーブレイクに加えて昼食時にもビュッフェ形式が設けられ、食事を取りながら研究内容について意見交換を行う光景が多く見られるなど、研究者同士の交流をより深める工夫がなされていた。
私たちは、世界最高クラスの強磁場を生み出す「超伝導マグネット」の研究を進めている。超伝導とは、ある温度以下で電気抵抗がゼロになる現象であり、この特性をもつ超伝導線を巻いて作られたコイルを「超伝導コイル」と呼ぶ。従来の銅線コイルでは流せる電流に限界があり、電気抵抗によるエネルギーロスも大きいため、強磁場の発生には限界があった。一方、超伝導マグネットは極低温での冷却を必要とするものの、大電流をほぼ損失なく流すことができるため、従来技術では得られなかった高磁場を効率的に発生させることが可能である。
このような超伝導マグネットが生み出す強磁場は、医療・分析機器、交通、エネルギー、基礎科学など幅広い分野で活用されている。医療・分析分野ではMRI(磁気共鳴画像装置)やNMR(核磁気共鳴)装置に用いられ、交通分野ではリニアモーターカーの浮上・推進に応用されている。さらに、核融合炉の磁場閉じ込め装置や高エネルギー加速器などの大型科学装置にも不可欠であり、高磁場環境を利用することで新しい量子現象の観測や物質科学の発展にも貢献している。
私たちは現在、定常磁場として世界最高となる33テスラ無冷媒超伝導マグネットの開発に取り組んでいる。しかし、このような高磁場マグネット内部では非常に強い電磁力(ローレンツ力)が発生し、コイルの変形や損傷を引き起こすおそれがある。したがって、「強磁場を安全かつ安定に発生させるための構造設計」が重要な研究課題となっている。
今回の発表では、「遮蔽電流誘起応力・ひずみ(Screening Current Induced Stress and Strain, SCIS)」と「端面含浸超伝導コイル」という2つのテーマを取り上げた。SCISとは、超伝導コイル内部に生じる遮蔽電流がコイルに余分な力を加える現象であり、これがコイルの変形や破損を引き起こして高磁場マグネットの性能を制限する要因となる。一方、「端面含浸」とはコイルの端部のみを樹脂で部分的に固める新しい補強構造である。従来のようにコイル全体を含浸すると、冷却時の熱応力により超伝導線が劣化するという問題があるが、端面含浸ではこの劣化を抑えつつコイルの機械的強度を高めることができる。私たちはこの手法を実験的に検証し、その有効性を確認した。
しかし、端面含浸構造がSCISの発生や分布にどのような影響を及ぼすかは明らかでなかった。そこで本研究では、数値解析により端面含浸コイルにおけるSCISの影響を評価し、さらにSCISを低減するための新たな設計指針を提案した。
端面含浸コイルにおける遮蔽電流誘起応力・ひずみ(SCIS)の評価と、SCIS低減手法の提案を行った結果、海外の研究者からSCIS低減効果の大きさを高く評価され、多くの質問や意見交換を通じて活発な議論を行うことができた。発表やレセプションの際には、英語での説明や質疑応答に積極的に取り組み、自身の研究内容を国際的に正確かつ自信をもって伝える良い機会となった。
学会期間中は、海外研究者とのディスカッションやポスターセッションを通じて、最新の超伝導マグネット技術や高磁場実験の動向を直接学ぶことができた。また、高磁場超伝導マグネットを応用した核融合用マグネット開発に関して、ヨーロッパの核融合スタートアップであるProxima Fusionの発表を聴講し、核融合実現に向けた国際的な研究開発の加速を肌で感じた。
今回の国際会議への参加を通じて、自身の研究が国際的にも注目を集めていることを実感するとともに、英語での口頭発表経験や国際的な議論を通して得た知見は、今後の研究活動において大きな財産となった。今後は、学会で得た知見を基に、より大規模なマグネットでの実証実験を進め、その先の実用化を見据えて研究をさらに発展させていきたい。
最後に、本研究の発表に際しご支援を賜りました一般財団法人丸文財団様に、心より御礼申し上げます。


