今回参加した EDISON 23 および EP2DS-26/MSS-22 は、それぞれ半導体エレクトロニクス分野と二次元電子系の研究分野における最先端の成果を議論する国際会議である。
EDISON 23では、半導体量子構造や微細構造などの将来の電子・光デバイス開発に不可欠な基盤研究が取り上げられた。発表件数は Invited 17件、Contributed 35件、Poster 28件 であった。次回は2年後、日本国内で開催が予定されている。
一方、EP2DSは1975年に米国ブラウン大学で始まった伝統ある会議で、隔年開催を通じて二次元電子系の基礎から応用まで幅広く扱っている。量子ホール効果の発見が二次元電子系から生まれたことは広く知られており、本会議はその分野で最も権威ある国際会議のひとつである。2025年はMSSと合同開催となり、Wolf賞受賞者による特別セッションや、ノーベル物理学賞受賞者 Klaus von Klitzing 教授による一般講演など、記念すべき企画も行われた。発表件数は Plenary 9件、Invited 42件、Contributed 52件、Poster 145件 と大規模で、次回は2027年に日本・松江で開催予定である。
EDISON 23では、「Novel Optical Evaluation of Spin–Orbit Parameters via Programmable Spin Helix Patterning in a GaAs/AlGaAs Two–Dimensional Electron Gas」という題目で口頭発表を行った。空間光変調器を用いて任意周期のスピンヘリックスを直接生成し、その時間発展を測定することで、スピンヘリックスの波数依存の緩和時間からRashbaおよびDresselhausスピン軌道相互作用を理論整合的に抽出する新手法を提示した。従来法に比べ、波数空間からの評価で柔軟性と整合性が高く、デバイス設計指標への直結可能性が討論の焦点となった。
EP2DS-26/MSS-22では、「Multiplexed Generation and Selective Filtering of Electron Spin Waves with Arbitrary Periodicity in GaAs/AlGaAs Quantum Wells」という題目でポスター発表を行った。空間光変調器により複数波数成分のスピンヘリックスを同時励起し、時空間ダイナミクスを評価した結果、PSH条件近傍の波数成分のみが長寿命に残存することを実証し、スピンヘリックスの“選択的フィルタリング(バンドパス機能)”を示した。本手法は多波長(多波数)信号の分離・選別に展開可能であり、スピントロニクス信号処理や並列情報処理への応用可能性について活発な質疑が行われた。
両会議を通じて、理論・材料・デバイス・計測の垣根を越えた議論に参加し、研究の位置づけと今後の展開に関する多面的な示唆を得た。質疑では実装スケールでの安定性評価や、より高速な時空間分解能によるスピンダイナミクスの抽出手法に関して具体的な助言を受け、共同研究の可能性についても複数の研究者と意見交換を行った。日本と海外における議論スタイルの違いを体感し、次回の両会議が日本で開催される意義と、国内から国際コミュニティへ成果を発信する責任を改めて認識した。
最後に、このような貴重な機会を与えてくださった一般財団法人丸文財団のご支援に、ここに深く感謝申し上げます。