ASCはアメリカで2年に一度開催される超伝導分野に関する世界最大の国際会議である。今年はソルトレイクシティにある The Salt Palace Convention Centerで9月1日~6日の6日間開催され、1,300件を超える超伝導に関する最新の研究が報告された。エレクトロニクス分野や材料分野など超伝導に関する様々な分野について、世界各国の大学、研究機関、企業などの研究者が発表した。
ソルトレイクシティは19世紀中期にモルモン教の開拓者たちによって築かれた都市でユタ州の州都となっている。また、2002年に冬季オリンピックの開催地となっており、ウインタースポーツの拠点として有名である。
次回のASCはペンシルベニア州のピッツバーグで2026年9月6日~11日に開催される。
「Preparation of Trifluoroacetate Metal Organic Deposition derived double-sided REBa2Cu3Oy thin film with high-superconducting properties for high-frequency devices.」というテーマで発表を行った。高温超伝導体であるREBa2Cu3Oy (REBCO, RE : rare earth)は超伝導特性 [臨界温度(Tc)、高臨界電流密度(Jc)、高臨界磁場(Hc)] が優れかつ、高周波帯においても常伝導体と比較し数桁低損失であるため、高周波デバイス(通信用フィルタ、アンテナ、NMR用ピックアップコイルなど)の飛躍的な性能向上が期待されている。申請者の研究室ではトリフルオロ酢酸を用いたTFA-MOD法(trifluoroacetate metal-organic deposition)による独自の製膜手法で作製した (Y0.77Gd0.23)Ba2Cu3Oy [(Y,Gd)BCO] 薄膜が非常に高い超伝導特性(高Jc,高Hc)を示すことを報告した。しかし、基板の片面のみ製膜したREBCO薄膜を用いた高周波デバイスはGND面が常伝導体であるのでその損失により挿入損失やQ値が低下し、高周波デバイスの性能が低下する。両面超伝導薄膜を用いることで挿入損失やQ値の改善、アンテナでは利得向上、NMR用ピックアップコイルではより複雑なコイルパターンが設計可能となり性能向上が期待できる。そのため、高周波デバイスには高い超伝導特性を有する両面(Y,Gd)BCO薄膜が求められている。そこで本研究では、高周波デバイスへの応用に向けた高超伝導特性な両面(Y,Gd)BCO薄膜の作製を目指した。
TFA-MOD法は液相成長法であるため、材料溶液を基板両面に塗布し製膜を行うことで両面薄膜を作製可能である。しかし、通常溶液塗布に使用されるスピンコーターでは基板の片面しか塗布できない。そこで両面塗布可能なスピンコーターと電気炉の治具を新規開発した。この治具を用いて様々なパラメータがある製膜条件を最適化し製膜を行ったところ、表面と裏面で膜全面にわたりTc,Jc,結晶性が均一である両面(Y,Gd)BCO薄膜の作製に成功した。またJcは両面ともに3 MA/cm2を超えておりこれは他の作製方法と比較して高いJcである。そのため、TFA-MOD法で作製した両面(Y,Gd)BCO薄膜が高周波デバイスに用いることが可能な材料であることを示した。
討論内容としては、片面ずつ塗布を行っているのか、1回目に塗布した方が2回回転しているので膜厚が表面と裏面で異なっていないかという質問をいただいた。これに対して片面ずつ塗布を行っており、スピンコーターは回転速度が重要となっているため2回回転していても大きく膜厚が変わることはないと回答した。また、基板を三点で固定している理由を聞かれた際は、TFA-MOD法は基板に当たるガスの流れが非常に重要となっているため、ガスの流れを妨げない機構として三点で固定しているという回答をした。
これまで国際会議に参加したことがなかったため、英語での発表、質疑応答には不安があった。しかし、これまでの英語学習の成果もあり質問に対して端的に回答することができた。一方で、回答するための単語や文章がすぐに出てこないこともあったため、伝えたいことを詳細に伝えられるように英語能力を向上させる必要があると感じた。
国際交流としては20名ほどの様々な国の方に聴講していただくことで達成できた。本会議ではTFA-MOD法で両面超伝導薄膜を製膜する方法について発表したため、具体的な製膜方法や作製した薄膜の特性に関する質問をいくつもいただくことができた。研究成果については従来の製膜方法から改善した点や測定結果ついて他の研究者から高い評価をいただき、本研究の優位性を世界に広めることができた。また、様々な発表を聴講し、超伝導に関する知見を広め自身の研究の発展に繋がる情報を得ることができた。
最後に、本会議の参加にあたり多大なるご支援をいただきました一般財団法人丸文財団に心より感謝申し上げます。