国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和6年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
山口 潤
(東京大学 大学院工学系研究科)
会議名
AVS 24th International Conference on Atomic Layer Deposition
期日
2024年8月4日~7日
開催地
フィンランド、ヘルシンキ

1. 国際会議の概要

本会議は、米国真空学会(American Vacuum Society: AVS)が主催する、原子層堆積(Atomic Layer Deposition: ALD)に関する世界最大規模の国際会議である。ALDは、気体原料の化学反応を利用して薄膜を形成する技術であり、主に半導体集積回路の製造において重要な役割を果たしている。アプライドマテリアルズや東京エレクトロンなど、主要な半導体製造装置メーカーがスポンサーとして名を連ねることからもこの会議の重要性と影響力が伺える。本会議は毎年開催されており、今年は世界中から1,000人を超える参加者が集まった。参加者数は国別で見ると、アメリカからが最も多く204人、次いで開催地フィンランドから168人、半導体産業が盛んな韓国から148人、ドイツから109人、そして日本からは72人が参加した。


Suntola博士による開会挨拶

ALDは1974年にフィンランドのTuomo Suntola博士によって実用化された技術である。今年はALD誕生50周年にあたり、その発祥の地であるフィンランドが会場に選ばれた。今回の会議は、10年前から計画されていた特別開催であり、会議冒頭ではSuntola博士による開会挨拶も行われ、非常に盛況を博した。

8月4日に6件のチュートリアルが行われ、8月5日から7日までの3日間にわたってメインセッションが開催された。メインセッションでは、2件の基調講演、22件の招待講演、174件の口頭発表、235件のポスター発表が行われ、4つのパラレルセッションで多彩な議論が繰り広げられた。議論のテーマとしては、新規原料合成、新規プロセス開発、装置設計、反応メカニズム解析、その場観察手法構築、数値シミュレーション、モデリング、理論計算など、多岐にわたる基礎技術が含まれており、ALDの応用分野として、半導体、ディスプレイ、太陽電池、燃料電池、リチウムイオン電池、触媒、医療技術など、さまざまな産業分野への展開が紹介された。

2. 研究テーマと討論内容


口頭発表の様子

半導体集積回路は、トランジスタ素子を微細化させ集積度を増すことにより性能向上が図られる。最先端デバイスではチップ当たり1,000億個ものトランジスタを搭載しているが、各素子を接続する配線層の形成もまた極めて重要な技術的課題である。現在のデバイスでは銅配線が主流であるが、その配線幅は10 nm以下に微細化が進展する見通しであり、電気抵抗上昇や信頼性劣化が深刻な課題となっている。これらに対処すべく、銅配線の密着層として、あるいは銅に代わる新規配線材料として、コバルトの導入が進められている。コバルト薄膜の形成手法として、膜厚制御性に優れるALDが有望である。そこで、コバルトのALDプロセスに関する研究を行い、得られた成果を “High-quality Co thin film by thermal ALD using CCTBA precursor by controlling H2 dose” という題目で本会議にて口頭発表した。コバルトカルボニル錯体であるCCTBAを前駆体とし水素還元によりコバルト薄膜を形成するALDプロセスにおいて、高品質なコバルト薄膜を得るためには、水素供給量が重要なファクタであることを明らかにした。さらに、薄膜形成過程の反応速度論的解析や量子化学計算と実験結果の整合性についても議論を行い、プロセスの最適化に向けた知見を深めた。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

本会議において世界中のALD研究者に対し、これまでの研究成果を体系的に発表する機会を得たことは、我々の研究活動を広く認知させる絶好の機会となった。発表を通じて、多くの有識者からの肯定的な評価をいただき、我々の取り組みや成果を広くアピールすることができた。また、さまざまな最先端の研究発表を聴講することにより、今後の研究を一層深化させるための重要な知見を豊富に得ることができた。

加えて、会議終了後には、ベルギーに所在する世界最先端の半導体研究機関であるimec、およびALDに関して世界的に著名な研究グループを有するオランダのアイントホーヘン工科大学を訪問する機会を得た。これらの訪問では、最先端の研究設備を見学するとともに、研究成果の共有や将来的な連携に関する意見交換を行い、国際的な研究ネットワークの強化を図った。これにより、今後の研究活動において新たな協力の可能性を見出すことができ、非常に意義深い国際交流となった。

この度は、貴重な助成金を賜り、心より御礼申し上げます。おかげさまで、国際会議への参加費用を賄うことができ、研究成果を発表する機会を得るとともに、世界中の有識者との意見交換を通じて、学術的な知見をさらに深めることができました。このような貴重な機会をいただけたことに重ねて感謝申し上げます。今後も、研究活動に一層精進してまいる所存です。

 
訪問先のimecおよびアイントホーヘン工科大学

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