国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和6年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
島村 勇德
(東京大学 物性研究所)
会議名
16th International Conference on X-Ray Microscopy (XRM 2024)
期日
2024年8月11日~16日
開催地
スウェーデン、ルンド

1. 国際会議の概要


会議が始まる直前

International Conference on X-Ray Microscopy (XRM)はX線顕微鏡に関する専門的な国際会議であり、1983年から、概ね2年毎に開催されてきた。顕微鏡には、光源・集光素子・検知器の三要素が不可欠である。特にX線の光源には、病院や研究室に収まるようなX線源の他に、加速器を必要とする大型放射光施設やX線自由電子レーザーのような大規模なものが存在する。こうした規模の違いに関わらず、全てのX線顕微技術を扱うのが本会議である。

第16回目のXRM 2024は、スウェーデンのルンドにあるルンド大学にて開催された。スウェーデン南部に位置するルンドは、デンマークの首都コペンハーゲンから電車で約1時間の場所にある。12世紀から17世紀の石造り・レンガ造りの建物が今でも残り、石畳で覆われた大学都市は歴史と活気に満ち溢れている。

8月11日はワークショップで、12日から16日にかけて口頭発表77件・招待講演7件・企画公演2件(ノーベル賞受賞者Stefan W, HellとAnne L'Huillierによるもの)・ポスター発表207件が行われた。採択率は公表されていないが、会議冒頭で「非常に発表のレベルが高く、選考に苦労した」と司会が述べていたことから、より多くの応募があったと想像される。実際、NatureやScience等の有名誌で2023年から2024年に出版された内容を多くの発表が取り上げていて、非常に競争が激しい分野だと痛感させられた。参加者は364人で、うち学生が84人だった。ヨーロッパ(スウェーデン・ドイツ・オランダ・スペイン・フランス・デンマーク・イギリス・イタリア・アイルランド)やアメリカ(米国・カナダ・ブラジル)の機関に所属する研究者が多く、それ以外はアジア(日本・韓国・中国・台湾)・オーストラリアを含め、比較的少なめであった。なお、放射光に関わる学会だと、同時期にCOHERENCE 2024 (Helsingborg, Sweden)、SRI2024 (Hamburg, Germany)、SPIE Optics +Photonics (San Diego, USA) 等が開催されており、特にアジア系の参加者は行き先が分かれたかもしれない。

次回のXRM 2026はブラジルで開催される。

2. 研究テーマと討論内容


自身の口頭発表の様子

Ultracompact Kirkpatrick-Baez mirror for forming 20-nm achromatic soft-X-ray focus toward multimodal and multicolor analysesという題目で発表を行った。本発表は、新たなX線集光ミラーとその応用を扱った、自身の博士過程の研究に関わる内容である。

バイオ・医用エレクトロニクス分野では、生体物質の構造や機能を分子レベルで理解し、活用する。こうした現象を塊の試料中で透視観察できるのがX線である。中でも軟X線域(波長4 nmから0.6 nm)は、生体物質の多くを占める軽元素・軽金属の電子と相互作用し、原子・分子に関わる電子の情報を明らかにできる。電子情報を局所的に透視するためには、軟X線を微細な点に集めてプローブを形成する。しかし、強度と微細さを両立したプローブ形成は困難だった。そこで、従来の軟X線用のレンズではなく、新設計の軟X線集光ミラーを提案した。集光ミラーは集光強度が高いが、軟X線用に作製精度を満たすことが極めて困難だった。光学設計と作製プロセスの観点から新たな集光ミラ―を設計し、開発した。集光性能を評価し、世界で初めて、軟X線域を理想的に集光した。これを用いて、従来強度が不足して困難だった軟X線蛍光顕微観察をナノスケールで行い、化学固定された神経細胞中の元素分布を濃度・量の点で可視化した。特に試料厚みや元素濃度は、唯一、本手法でのみ分析できる。本分析手法やプローブは、超伝導・新型トランジスタ等の先端材料やデバイスの評価にも活用できる。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)


David Attwood先生(右)との遭遇

XRMへの参加は初めてだが、人・進路・熱気・歴史の4点で刺激的だった。まず人について、これまでいくつか国際会議に参加し、同年代の博士学生と知り合ってきた。そうした顔触れと本会議で再会し、研究の進捗を共有し合ったり、X線関連企業に就職して協賛側に回っている姿を見たりと、大きなコミュニティの中で自身の居場所を感じることができた。自身の発表直後に声をかけてくれた年配の男性が、実は自分が頻繁に読んでいた教科書の著者(米国UC BerkleyのDavid Attwood先生)だった、というのもオンラインではなく実地開催ゆえの出来事だろう。最後にはYour future is bright!と、思ってもみない言葉をかけられ、感動の瞬間だった。その他、自分が参考にしてきた論文の著者で、名前でしか知らなかった数多くの人(海外に限らず、国内の方々も)と話すことができて、X線顕微鏡界隈を非常に身近に感じることができた。

進路について、自分が興味を持っていた研究機関から研究者が来ており、空いているポジションについて聞くことができた。現在、応募している段階だが、求めているスキルや実際の生活等について詳しく聞けて、非常に有益だった。企業からも参加者がいて、産業界でどのようにX線顕微鏡が使われているのか垣間見たことも、大きな収穫だった。本学会の男女比は6:4程度で、私の研究環境よりもかなり女性が多かった。海外に留学していた際の雰囲気を思い出して何だかホッとしつつ、子供連れや妊娠中の女性が発表している姿を見て、自身の家庭と研究のあり方を考える機会があった。

感じた熱気は、分野のトレンドと相まっている。近年、大規模なX線光源が数多く登場しており、しかもその性能は飛躍的に向上している。非常に明るいX線が利用できるようになったことで、計測時間の点で従来困難だったX線分析が可能になってきた。さらに、多次元の大規模データに大規模計算や機械学習を併用したX線分析が数多く提案され、X線分析結果を複合させる多モード解析がブームとなっている。初日のワークショップでもこのトレンドは明らかで、直近数年に有名誌で出版された成果が多く発表されたのも、こうした盛り上がりを反映している。ポスター発表は、肩が触れ合うくらいの密度で人が集まり、盛んに議論が交わされていた。これまで見たことのない、極めて研究レベルの高いポスター発表に感じられ、2時間以上経ってもなお人が残る盛況ぶりだった。

国際会議で歴史に思いを馳せることは、今回が初かもしれない。今回の発表に際し、Werner Meyer-Ilse Memorial Award (WMI Award)を受賞した。1999年、XRMの共同主催者であったWerner Meyer-Ilse博士が、会議数日前に事故で急逝された。その際、博士の功績を称え、「X線顕微鏡の技術・応用において飛躍的な成果をあげた若手研究者への表彰枠」が創設された。以来、博士号取得見込みあるいは取得後2年以内の研究者でXRMにて口頭発表を行う者に対し、選考委員会の審議を経て、1名か2名に贈賞されてきたという。歴代の受賞者は、定期的に有名誌で名前を見かけるX線顕微鏡界隈の著名人ばかりである。今回の会議に、自身の博士論文・CVを添えて、指導教官らに推薦されて私は臨んだが、候補者は例年6名程度であるのに対し、12名だったという。そもそも発表全体が最先端の内容で洗練されており、X線分野以外に影響力がある程スケールが大きい。どの候補者が選ばれてもおかしくない。受賞は事前に知らされていなかったため、会場中心の席に座ってしまった私は、突然名前を呼ばれてもどうして良いかわからない。他の人をかき分けて進むのも一苦労で壇上に行けず、“Takenori! Ah…Takenori…are you here?” “Yes, I’m coming”のような有り様だった。先人の活躍で創設され、受賞者のさらなる活躍によって続いてきた賞故に、身に余る光栄といった気持ちが極めて強い。今回壇上に呼ばれたことで、今後どのように活動していくか、過去の受賞者達の活躍と比較されていくだろう。受賞自体は目標ではなく、あくまでこれまでの結果としてついてきたものだと思う。これまで協力いただいた方々への感謝を忘れず、次に何をしたいか(するべきか)、良く考えていきたい。

最後になりますが、こうした活動は国際会議参加のための助成金が無くては実現し得ないものでした。寛大にご支援いただいた一般財団法人丸文財団に御礼申し上げます。


受賞の様子

Werner Meyer-Ilse Memorial Awardのメダル

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