共振器を用いて光と励起子を強く相互作用 (強結合) させると、励起子ポラリトンと呼ばれる混成状態が形成される。この強結合条件下では、励起子が光子をまとうことによる物性の変調が起き、既存の材料よりも長距離なエネルギー移動や室温でのボースアインシュタイン凝縮などの特異な現象が報告されている。これまでに、筆者 (佐々木) らはエキシマ-形成がポラリトン材料の発光ダイナミクスに及ぼす影響を明らかにした (Phys. Chem. Chem. Phys., 2024, 26, 14745-14753) 。この研究を通し、ポラリトン材料における励起子の拡散・エネルギー移動ダイナミクス制御が、ポラリトン材料の光エネルギー変換への応用に重要であることに気がついた。
そこで本研究では、励起子ポラリトン材料における励起状態ダイナミクスの解明を目的とし、有機デバイスの作製と評価を行う。共同研究を開始するための準備として、励起子ポラリトン形成に基づく超長距離にエネルギー移動を報告した Georgiou 博士 (キプロス大学) を研究室に招へいし、励起子ポラリトン材料における電子・エネルギー移動過程の制御に関するディスカッションを行った。また、材料作製や評価系に関するアドバイスをいただき、研究環境の構築を進めた。
※外国人研究者の招へいであるため、来日期間の内容を記載する。
まず、Georgiou 博士と励起子ポラリトン材料の作製と評価系に関するディスカッションを行った。共振器を作製する上で重要となる蒸着・スパッタリング条件の検討方法や、有機薄膜の導入手法に関するアドバイスを数多くいただいた。
次に、励起子ポラリトン材料における長距離エネルギー移動に関する近年の研究について Georgiou 博士にセミナー発表をしていただいた。共振器の設計から、未公開の高速分光測定の結果まで様々な情報共有があり、研究動向を把握することができた。さらに、この発表の後のディスカッションをきっかけとして、新しい共振器の設計に関する共同研究を始めることとなった。
また、転送行列法をはじめ、励起子ポラリトン材料の設計と評価に必要なシミュレーションプログラムを共有していただき、プログラムの書き方や式の導出といった細部を丁寧に理解するよい機会となった。今後はシミュレーションと材料の評価を並行して行い、材料の開発を進めていきたい。
一週間という短い招へい期間ではあったが、Georgiou 博士とのディスカッションを通じて実験・理論の両面で励起子ポラリトン材料について理解を深めることができた。また、欧州の研究施設への訪問や、海外大学院への進学を検討している学生に対して、欧州の研究環境を知る機会を提供できた。さらに、Georgiou 博士からいくつかの共同研究先の紹介もあったため、今回の共同研究の機会を活用し国際的な交流を広げていきたい。
さらに、ポラリトンに加えて、ナノフォトニクス分野の研究動向や、それぞれの分野の研究者ネットワークについてについても知見を広めることができた。光-物質相互作用に関連する分野は近年化学への応用が進められており、今後ますます重要になっていくことが予想される。Georgiou 博士らと密な連携を取りつつ、世界的にインパクトのある研究を続けていきたい。
本国際交流をきっかけとして、欧州を中心にこれまで発展してきた励起子ポラリトン材料の研究を国内で進める環境を構築できた。今後は励起子ポラリトンを筆者らが焦点を当ててきた光化学と組み合わせ独自の視点から展開していきたい。貴財団の支援に深く感謝申し上げる。