2024年5月26日~5月30日の5日間にわたりアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコのMarriott Marquis San Franciscoにて開催された245th ECS Meetingに参加し、招待講演による研究成果発表および最新の研究動向調査を行った。本会議を主催するElectrochemical Society (ECS)は、固体物理および電気化学分野において世界で権威のある学会の一つである。また、ECSが1902年に設立されて以降、春と秋の年2回開催されるECS Meetingは今回で245回目を迎える歴史と伝統のある国際会議である。48のシンポジウムおよび439のセッションで構成された世界的に見ても大規模な本会議には、世界68か国から多くの研究者や技術者が参加し、発表件数は3,000件以上に及んだ。私は、Dielectric Science and Materials分野の中の “Dielectrics for Nanosystems 10: Materials Science, Processing, Reliability, and Manufacturing” という、今回で10回目の開催となる先端半導体技術に関するシンポジウムにて招待講演を行った。
私は、 “Role of Oxidant Gas for Atomic Layer Deposition of HfxZr1−xO2 Thin Films on Ferroelectricity of Metal-Ferroelectric-Metal Capacitors” という講演題目で、次世代不揮発性メモリへ向けた新規材料として注目されているHfO2系強誘電体に関するトピックの中で、先端半導体プロセスで重要な原子層堆積(ALD)法を用いたHfO2系強誘電体薄膜の成膜技術に関する自身の最新の研究成果を発表した。
ALD法は、“有機金属原料”と“酸化剤ガス”を成膜室に交互に供給して金属酸化膜を成膜する手法であり、高品質なナノ薄膜を作製するためにはこれら“有機金属原料”と“酸化剤ガス”の選択が非常に重要である。そこで私は、この中で“酸化剤ガス”に着目して、この酸化剤ガスの種類がHfO2系薄膜の結晶性や強誘電性、デバイスの信頼性に及ぼす影響について調査した。HfO2系薄膜の酸化剤ガスとして、一般的に用いられているH2Oではなく強酸化力・高エネルギーのO2プラズマを採用することで、世界に先駆けて300℃の低温プロセスでの高品質HfO2系強誘電体薄膜の作製に成功した。また、HfO2系強誘電体薄膜の実用化へ向けた最大の課題であるメモリ動作時の特性劣化現象が、HfO2系薄膜/電極間の界面反応に起因することを解明したと共に、酸化剤ガスとしてO2プラズマを用いることでALD成膜時に安定したHfO2系薄膜/電極界面が形成され、結果として特性劣化を抑制することに成功した。以上、HfO2系薄膜の“膜質”だけではなく、“デバイス界面設計”にも着目してALD成膜プロセスにおける酸化剤ガスの重要性を議論した。
私が参加したシンポジウムは主に招待講演で構成されていたため、最先端の研究内容を基礎から応用に近い内容までまとまった一つの話として聴講することができた。また、招待講演は質疑応答も含めて40分間であり、私が今までに経験した中で最長の発表時間であったが、重要なポイントや複雑で分かりづらい内容について落ち着いて時間をかけて丁寧に説明することができた。その結果、質疑応答やその後の休憩時間では、私が議論したかった内容に対して質問やコメントをいただくことができ、非常に有意義な発表となった。また、本発表に関連した内容をまとめた論文が同学会のECS Transactionsに出版(T. Onaya and K. Kita, ECS Trans. 113(2), 51 (2024).)されたため、本会議での発表に加えて論文でも私の研究成果をアピールすることができた。
本会議は様々な分野から成る48ものシンポジウムで構成されていたため、専門分野に限らず異分野の研究や技術に触れることで新たに視野を広げることができた。さらに、世界の研究動向や今注目されている最先端技術を肌で感じることができ、今の日本や自分自身の立ち位置を確認することができた。
本会議へ参加するにあたり、渡航費や滞在費等を助成いただきました一般財団法人丸文財団と関係者の皆さまに深く感謝申し上げます。