この度は、令和6年度丸文財団国際交流助成によるご支援を受け、22nd International Conference on Magnetism (ICM2024)に参加し口頭発表を行った。本学会は磁性に関する基礎研究から応用開発まで幅広い領域をカバーする国際学会であり、3年に一度、直近ではSan FranciscoやBarcelona、Busanなど世界各地で開催されている。22回目の開催となる今回は、イタリアのBolognaにあるBologna Congress Centerを会場として開催された。参加者は2,000人を超え、通常の口頭・ポスター発表に加え、100を超える招待講演や、ノーベル賞受賞者ら(Albert Fert, Nobel Prize in Physics 2007およびGiorgio Parisi, Nobel Prize in Physics 2021)による講演を含む特別講演が連日開催された。
今回私の講演題目は、“Observation of anisotropic charge-spin conversion in bismuth thin films”であり、ビスマス中の電流スピン流変換効率について、ビスマスの膜厚・結晶方位を変化させることで効率の大きさとその結晶方位依存性を測定するとともに、その起源について議論した。
研究分野であるスピントロニクスは、キャリアのスピン自由度に着目して従来エレクトロニクスに無い新奇現象・機能を創出する研究領域である。電荷電流のスピン版であるスピン流の伝導特性の研究や電荷電流によるスピン流の生成(スピンホール効果)を通して、スピン流を用いた低消費電力かつ高速な磁気メモリ操作などが期待されている。スピン流の生成は物質のスピン軌道相互作用が重要な役割を果たすが、ビスマスは、非放射性元素で最も大きなスピン軌道相互作用を持ち、巨大なスピン流の生成効率が期待されてきた。一方で、これまでの研究ではビスマスにおけるスピン流生成が無視できるほど小さいという実験結果が報告されており、当該領域における大きな謎の一つであった。申請者は、ビスマスが有する結晶異方性に着目することで、ビスマスのスピン流生成効率が異方性を有することを見出し、従来研究されてこなかった菱面体(110)方位のビスマス結晶を用いることで単体元素における最大級のスピン流生成を実現した。
発表を通じて、作製した強磁性体・ビスマス膜の素性を始め、熱電効果の影響や近年注目されている電子の軌道角運動量との関係など多岐にわたる質問を受けた。特に、軌道角運動量の効果については直前に特別講演のトピックとして取り上げられており、最近注目されている効果と本研究との関係を議論できたことは有意義であった。質問者数も多く、簡明な発表内容にできたのではないかという自信にもなった。
会議全体を通しては、国際共同研究を行っていた研究者との交友を深め、共同研究についての打ち合わせができたほか、最先端のトピックを扱う特別講演についての意見交換ができた。注目度が高いセッションは、会場に多くの人が集まり立ち見せざるを得ないほどの盛り上がりを見せ、今注目されている研究トピックを肌で感じることができた。
最後に、本会議への参加にあたってご援助を賜りました貴財団に厚く御礼申し上げます。