MRS Fall MeetingはMaterials Research Society (MRS)が年2回実施する大規模な国際材料学会で、半導体や金属材料について幅広く議論する場となっている。1973年に設立されたMRSはおよそ13,000人の材料系研究者が会員となって運営しており、毎年春には(西海岸の)さまざまな都市で、毎年秋にマサチューセッツ州ボストンで会議を主催している。2025年の春はシアトルで、秋はボストンでの開催が、2026年の春にはホノルルでの開催が予定されている。
2024 MRS Fall Meetingでは5,074件の発表があり、その内口頭発表は3,484件、ポスター発表は1,590件であった。本会議は主にBroader Impact (BI)、Characterization (CH)、Electronics, Optics and Photonics (EL)、Energy and Sustainability (EN)、Materials Theory, Computation and Data Science (MT)、Nanomaterials (NM)、Processing, Manufacturing and Synthesis (PM)、Quantum Materials (QT)、Soft Materials and Biomaterials (SB)、Nanomaterials (SF) の10個のシンポジウムから構成されており、それらを細分化した計67のセッションが行われた。その他にも8つのチュートリアルセッション、企業ワークショップが並行して開催された。
一般講演の口頭発表は多数のパラレルセッションで6日間にわたってHynes Convention Centerと隣接するSheraton Boston Hotelにて行われた。講演と講演の間にDiscussion Timeも設けられ、対面ならではの活発な議論や情報交換が各会場でなされていた。ポスター発表は3日間に分かれて開催され、Hynes Convention Centerの大ホールで行われたため広々とした配置となっており、各所で熱心な議論が交わされる様子が見られた。
私はElectronics, Optics and Photonics (EL)の中の“EL04: Recent Advances in Hybrid Perovskites”のセッションにて講演を行った。ハロゲン化鉛ペロブスカイトはその高い外部量子効率 (EQE) や高い光吸収係数といった優れた光学特性から近年注目を集めており、本会議でも同材料系に関して多くの発表が見られた。そんなペロブスカイト材料の一種であるCsPbBr3ナノ結晶をCs4PbBr6結晶内部に埋め込んだCsPbBr3/Cs4PbBr6複合材料では、励起光よりも高いエネルギーの発光(アンチストークス発光)が明瞭に確認されており半導体光学冷却への応用が期待されている。光学冷却実現に向けてバンドギャップ以下の低エネルギーにおける光吸収の増大は冷却能の向上に繋がるものであり、本研究では結晶成長の再結晶プロセスとアニール処理を行うことで上記を試みた。
主な討論内容としては、アンチストークス発光という稀有な物理現象に関するもの、CsPbBr3/Cs4PbBr6複合材料の結晶構造の形成方法に関するものが主であった。ナノ結晶がホスト材料に埋め込まれているゲストホスト構造の結晶の成長理論に関してはいまだに不透明な部分が多いため、今後とも知見を深めていきたいと考えている。また、再結晶プロセスに関しては図と説明文からは伝わりにくい部分があったためか多く説明を要求されることとなった。今後とも一目で自分の言いたいことが伝わる文章と模擬図を意識して発表資料を作成していきたいと感じた。
今回、助成金をいただき初めて国際会議に参加し、自分の研究を大いにアピールする有意義な時間を得ることができた。大変緊張したものの、拙い英語ながら自身の研究意義を伝えることができ、研究者としてプレゼンテーションスキルの向上に繋がる成長を感じた。国内の学会にしか参加経験のない著者にとって本会議は日本からの参加者が少ないということもあり、多くの外国人研究者と意見交換し交流する非常に貴重な機会となった。そのため、学会を通じて英語でのコミュニケーション能力の重要性を改めて感じ、きちんと自分の言いたいことや相手の伝えたいことをくみ取れるレベルまで英語のスキルを磨く必要があると実感した。
学会を通じて、近年太陽電池材料として注目を集めているペロブスカイト材料の安定性を維持する最新技術やパッシベーション化の方法について知ることができたほか、研究者の最新の動向や考え方などを得ることができ、今後の研究におけるモチベーションの向上に繋がると感じた。また、国内の会議ではあまり発表が見られなかったペロブスカイト材料を用いたLEDやトランジスタ、イメージセンサーなど様々なデバイスに対する知見を得られたことも大きな成果であると考えられる。そして、光学冷却といった突飛な研究をより世界に注目していただくために日々邁進していきたい。そして、筆者は今回本会議には初参加であったが、ペロブスカイト系の研究者が世界中から集う貴重な機会であったため今後もまた参加したく思う。
最後に、今回の国際会議に参加するにあたり、貴財団からご支援をいただき誠に感謝している。