EMC (Electronic Materials Conference)は、毎年6月頃にアメリカで開催される電子材料に関する国際会議である。今回の会場はメリーランド大学で、300件以上の発表が行われた。今年は38のセッションがあり、有機材料や薄膜デバイス、酸化物半導体やワイドバンドギャップ半導体など幅広い分野について活発な議論・発表が行われた。
メリーランド大学はワシントンD.C.から電車で一時間ほどの距離に位置し、キャンパス内には写真のように統一感があり美しい建築が並ぶ。大学内のドミトリーに宿泊することが可能で、キャンパスを出ると飲食店等も並んでいるため快適に過ごすことができる。ワシントンD.C.はアメリカの中心的都市で、ワシントン記念塔やホワイトハウス、スミソニアン博物館など、有名な建造物が多々ある。
次回のEMCは2025年6月にアメリカのデューク大学で開催予定である。
本会議では、“Characterization of temperature dependence of barrier height in Ni/β-Ga2O3 SBD over a wide temperature range and evaluation of valence band structure by XPS”という題で口頭発表を行った。
酸化ガリウム(β-Ga2O3)は、次世代パワーデバイス材料として近年注目を集めている。しかし、詳細な物性については未解明なものも多く、学術的な基礎研究が必要とされている。特に、β-Ga2O3にはp型が存在しないため、金属/n型β-Ga2O3界面物性の解明が重要である。
本研究では、金属/n型β-Ga2O3界面のショットキー障壁高さについて、広い温度範囲での温度依存性を詳細に調べた。β-Ga2O3は移動度が低いため、電流-電圧(I-V)特性の解析において広い温度範囲で移動度の影響を考慮する必要がある。これを考慮することで、容量-電圧(C-V)特性、内部光電効果(IPE)による光電流の測定、I-V特性から一貫した障壁高さの温度依存性を得ることができた。
また、得られた障壁高さの温度依存性が先行研究のバンドギャップの温度依存性と一致しないことに着目し、放射光施設でX線光電子分光(XPS)測定を行うことで、β-Ga2O3においては価電子帯上端が温度変化していることも明らかにした。これらの結果は、β-Ga2O3デバイスの動作の温度変化をシミュレーションする際に有用である。
発表では、解析の条件多数の質問をいただき、研究の詳細や今後の展望などについて有意義な議論を行うことができた。
本会議では、各国の研究団体の最先端の研究内容を聴講することができた。自分の専門分野だけでなく、専門分野から少し離れた内容についても勉強することができ、見識を広げることができた。また、自分の発表に対しても多数の質問をいただき、他機関の研究者と議論を行うことができた。
さらに、他国の同世代の大学院生との交流の機会も得られ、日本とは違う環境において学生がどのように過ごしているのかを知ることができた。他国の学生の生活や環境を知ることは、今後の進路における留学という選択肢について考えを深めることにつながり、非常に良い経験となった。また、日本人がほぼいない環境に踏み込んで、英語で積極的にコミュニケーションを取るという経験は、今後世界で活躍する研究者を目指す上で非常に重要なものだと感じた。
私は現在修士課程1年生でまだ研究を始めたばかりではあるものの、このような国際会議の場に立つことができ、また、そこで良い反響を得ることができ、非常に嬉しく思っている。今後の研究生活に役立つ経験を積めただけでなく、より一層研究に励むモチベーションにも繋がった。私は博士課程への進学を志しているためまだ学生としての期間は長いが、今回の経験を糧に努力を続けたいと思う。
最後に、指導いただいた先生方、共同研究者の方々、今回ご支援いただいた一般財団法人丸文財団にこの場を借りて心より感謝申し上げます。