International conference on magnetism (ICM)は、パラレルで10セッション以上の講演が行われる世界最大級の磁気学会であり、基礎研究から最先端の応用研究までMagnetismの全分野をカバーしている。ICMは、3年ごとに開催される学会であり、直近では、サンフランシスコ(2018年)、バルセロナ(2015年)、釜山(2012年)で開催されている。上海でのICM2021がパンデミックにより中止になったため、今回、ICMは6年ぶりの開催となり、イタリア・ボローニャで行われた。
スピントロニクスでは磁気の流れであるスピン流(マグノン)が情報伝達を担うが、マグノンの伝搬距離はum程度と非常に短く、情報の長距離伝搬に課題があった。そこで、マグノンを長距離飛ばすために、マグノンと、伝搬距離の長いフォノンである表面弾性波(SAW)をカップルさせる研究が注目を集めており、その現象について研究が進められている。先行研究において、SAWが磁性体薄膜上でマグノンにエネルギーを吸収され、振幅が減衰する様子は、磁性体薄膜の隣にある電極で測定されていた。しかし、その測定法ではマグノン-フォノンカップリングが起きている磁性体薄膜上の振幅測定はできず、SAWの振動が少しずつマグノンに吸収される現象が本当に起きているかどうかが不明瞭であった。
そこで、本研究では、パルスレーザー干渉計を用いて、磁性体薄膜上でのイメージングを行い、カップリングがあるときと、ないときの条件下でSAWの振幅と位相を比較した。その結果、カップリングが起きているとき、SAWの進行に伴う振幅減衰と位相変化を明瞭に観測することに初めて成功した。それにより、マグノン-フォノンカップリング系の測定法の開拓と、理論の妥当性の検証に寄与した。さらに、デバイス内でのSAWの反射を考慮したモデルでイメージング結果を再現することに成功し、デバイス上でのSAWの振幅、位相は反射波の影響を大きく受けていることを突き止めた。上記の研究成果をphysical review applied誌に掲載し、その内容をDirect imaging of spatial decay profiles of surface acoustic waves due to magnon-phonon coupling in ferromagnetsというタイトルで今回、口頭発表した。
私はこの国際学会で、日本では得ることのできない貴重な経験をすることができました。学会2日目には学生でありながらポスターの審査員として、フランスの学生のポスター評価をする貴重な機会をいただきました。英語でコミュニケーションを取りながら質疑応答をし、各評価項目に点数をつけるという経験は、世界的に通用する研究者になる上で非常に有意義な時間となりました。また、夜には現在行っている研究の先駆者とともに晩酌を交わしながら、今行っている実験について重要なアドバイスを数多くいただきました。また、自身の発表を行った際、3名の方から質問があり、そのうち1名からは特に高い評価をいただきました。長文での質問にうまく対応できなかったのが悔やまれますが、この経験を活かしてさらにより良い国際研究交流ができるよう精進していきたいです。
最後となりますが、本学会の参加にあたり、多大なご支援を賜りました貴財団に心より感謝申し上げます。