本会は電気化学会(ECS:The Electrochemical Society)が主催する世界最大規模の電気化学分野に関する会議である。対象分野は電気化学やエネルギー化学のみならず、それに関連した材料やその他の固体材料・デバイスなど多岐にわたる。2008年から4年ごとに開催されており、今回で5度目となる。欧米やアジアを始め世界中から研究者がホノルルに一堂に会する。そのため、本会で発表される内容は各分野の最先端研究が目白押しであり、その影響力も極めて大きい。今回は10月6日から11日の合計6日間開催され、発表者は5,000人以上であった。そのうち学生は2,000人を超えており、世界中の学生どうしの交流の場ともなる。
多機能ディスプレイを始めとした次世代デバイスの高性能化には、高速薄膜トランジスタ(TFT)が必要不可欠である。特にGeは高いキャリア輸送特性を持つため、TFTチャネル材料として注目されている。今日では絶縁体上に合成した多結晶Ge薄膜を用いたTFTの研究が活発化している。特にこれまでは、「固相成長」というシンプルな結晶化手法を丹念に研究し、Ge薄膜の高品質化を図ってきた。しかしながらTFTに好適な薄い膜(≤ 50 nm)では基板界面での核発生が顕著になり結晶粒径が小さくなる。その結果、キャリア移動度が大きく減少してしまうのが課題であった。そこで、固相成長における核発生の制御技術を考案した。特に基板界面での核発生を抑制したことで結晶粒径は約10倍に増加し、キャリア移動度を大幅に増加させた。本合成膜を用いて薄膜トランジスタを作製すると、多結晶Ge系薄膜の中で最高性能(オン/オフ電流比:~103、電界効果移動度:250 cm2 V−1 s−1)を示した。さらに、本技術は極めてシンプルであることから産業応用の障壁が低く、国内においては企業研究者の注目も集め始めている。薄膜トランジスタ応用に留まらず、次世代デバイスを開拓する革新的成果である。
今回は学生のポスター発表は946件あった。主に電気化学系の発表で占められていて、半導体デバイスに関する研究発表はごく少数であった。そうであるからこそ、イントロダクションから丁寧に説明するように心がけ、専門の異なる方にもわかってもらえるように取り組んだ。その結果、Student awardの最終候補者(上位5%程度)にも選出された。発表自体は滞りなく説明することができたが、質疑において相手の発言の意図を汲み取れていないことが何度かあった。質問内容を一度で理解できなかったところは反省すべきだが、こちらから相手に聞き返して議論を活発にできたところは貴重な経験になったと思う。
自身の発表だけでなく多くの学生の発表を見る機会があった。中でも半導体を用いた電気化学デバイスに関する研究は興味深かった。これまで、トランジスタや太陽電池などの半導体デバイスについて研究してきた。研究対象としている材料はゲルマニウムだが、本材料における電気化学反応はどうなるのかと考えるきっかけになった。
以上のように、自身の発表で世界中の研究者と議論できたこと、他の学生の発表から自身の研究にフィードバックできたことは、非常に良い機会となった。
今回の有意義な国際会議に参加するための海外渡航に助成いただいた一般財団法人丸文財団に深くお礼申し上げます。