この度、APS Global Physics Summit 2025に参加し、研究発表を行った。本会議はAPS(アメリカ物理学会)が毎年3月ごろに開催する、物理学に関する世界最大の会議である。世界中から10,000人規模の物理学者が集まり、量子物理学からソフトマター、天体物理に至る幅広いトピックに関して朝8時から夜18時ごろまで発表セッションが組まれている。会場内は大勢の参加者で賑わい、私がこれまで参加した国内外の会議と比べても、これほどの熱気に満ちたものは他に例がない。
私が専門とする二次元層状物質の研究に関しても、常に5つ程度のセッションがパラレルで開催されており、どのセッションに参加するか迷うほどであった。本分野の研究はアメリカを筆頭に海外が非常に活発であり、最新の超伝導やツイスト顕微鏡に関する報告が次々となされ、会場の部屋は聴講者で埋め尽くされていた。一方、日本の研究グループによる発表は少なく、日本の研究のプレゼンスをさらに高める必要があると強く感じた。
二次元半導体のWSe2は、複数層になると膜厚方向に量子閉じ込め効果が発現し、量子井戸と同様に離散的なエネルギー準位(サブバンド)を形成する。このサブバンドを用いることで、従来の量子井戸デバイスを二次元層状物質のファンデルワールスヘテロ構造で実現できる可能性が強く示唆される。本研究では、2つのWSe2間を流れるサブバンドを介した共鳴トンネル電流を観測し、共鳴トンネルダイオード(RTD)を実現した。共鳴トンネルは電流-電圧特性にピーク・バレー構造をもたらすが、ここでピークとバレーの電流値の比であるPVRはデバイス性能を評価する重要なパラメータである。本発表では、WSe2の層数を変えたさまざまなRTDを作製し、二次元層状物質ベースのRTDの中で最大のPVR(> 60)を達成した成果を報告した。
本実験では、ゲート電圧の印加によって2つのWSe2のそれぞれにホールを蓄積させ、ホールのトンネル電流を観測している。ここで、WSe2の価電子帯サブバンドは波数空間においてΓ点に位置する。本研究では、Γ点の波数を保存した共鳴トンネルが大きなPVRを生み出す鍵であることを実験的に見出した。
質疑応答では、一方のWSe2にホール、もう一方に電子を蓄積させて、p-nのトンネル接合とするほうがPVRは大きくなるのではないかという重要な示唆をいただいた。WSe2の場合、伝導帯のサブバンドはΓ点ではなくQ点の波数をバンド端として形成する。そのため、p-nのトンネルでは波数保存が実現しなくなるが、WSe2以外の材料に変更するなど検討の余地があると感じた。
APSに参加するのは昨年が初めてで今年で二回目になる。海外グループの昨年と今年の発表内容を比較することで、その研究スピードの凄まじさを改めて実感できた。そして、海外グループと競い合うために、より精力的に研究を進めたいという思いに駆られた。このように、最新の研究内容をキャッチアップして新たな視点を得ると同時に、自身の研究意欲を一層高める契機ともなったため、今回の国際会議への参加は非常に有意義であった。
貴財団には、本会議への参加に際し多大なるご支援を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。現地での発表という貴重な機会を通じて得た経験を、必ず今後の研究に生かし還元したく存じます。本助成は、私のような若手研究者にとって大変貴重な支援であり、今後も継続していただけますと幸甚に存じます。