International Conference on the Physics of Semiconductors (ICPS)は、半導体物理学に関する最大規模の国際会議であり、International Union of Pure and Applied Physics (IUPAP)が後援しています。この会議では、現在私たちの生活に浸透している技術の基礎として、半導体物理学の最先端の状況が報告されます。
会場はカナダの首都オタワにあるShaw Centreで、2024年7月28日から8月2日までの6日間にわたり開催されました。800人以上の研究者が参加し、スピントロニクスや量子技術、低次元半導体など17の異なる分野に分かれたセッションが並行して行われます。この会議は、世界中の研究者が一堂に会し、最新の研究成果を共有・議論するための重要な場となりました。
本会議にて、「Dresselhaus Spin-Orbit Coefficient Evaluated from Weak Antilocalization in a Gated InSb/AlInSb Quantum Well」というタイトルで口頭発表を行いました。内容はInSb量子井戸におけるスピン軌道相互作用の評価です。
InSbは、狭バンドギャップの半導体であり、強いスピン軌道相互作用を持つため、スピントロニクス分野で注目されています。特に、InSbナノワイヤーと超伝導体のハイブリッド構造は、トポロジカル量子コンピューティングの有望なプラットフォームとして研究されています。この分野では、スピン軌道相互作用の精密な制御が重要です。InSb量子井戸には、ラシュバスピン軌道相互作用とドレッセルハウススピン軌道相互作用の2種類のスピン軌道相互作用が存在しますが、これらを同時に評価した例はなく、スピン軌道相互作用の評価が十分に行われていません。また、ゲート変調を行った場合のスピン軌道相互作用の変化も未解明です。この2点がInSbを利用したトポロジカル量子コンピューティングやスピントロニクスデバイス応用において制限となっています。
本研究では、弱反局在現象を用いて、ゲート付きInSb/AlInSb量子井戸のラシュバスピン軌道相互作用とドレッセルハウススピン軌道相互作用を評価しました。温度20 mKで量子干渉効果を測定した結果、ゼロ磁場付近で弱反局在現象を観察した。またSawadaモデルを用いることで、ラシュバスピン軌道相互作用とドレッセルハウススピン軌道相互作用のゲート依存性の評価を実現しました。これにより、InSb量子井戸のスピン軌道相互作用係数を精密に求める手法を確立できたと言えます。
今回、初めて国外で開催される国際会議に出席し、口頭発表する機会を得られたことは、今後の研究活動における非常に貴重な経験となりました。会場では、世界中の研究者たちが最新の研究内容を発表しており、その一員として自分も発表できたことを大変嬉しく思います。しかし、発表後の質問に対して十分に納得のいく回答ができず、悔しい思いをしました。今回の経験は、英語学習への意欲を一層高めるきっかけとなりました。
また、共同研究を行っている研究者との交流を深め、研究の進展について有意義な議論をすることができました。プレナリーセッションでは、今注目されている研究テーマを直接聞くことができ、非常に勉強になりました。これらの経験を通じて、自分の研究に新たな視点を取り入れることができ、今後の研究に大いに活かしていきたいと思います。
最後に、本会議への参加にあたってご援助を賜りました貴財団に厚く御礼申し上げます。