International Conference on the Physics of Semiconductors(以下 ICPS)は半導体や低次元物理、メソスコピック系の物理を対象にした国際学会であり、今回の学会では整数量子ホール効果の発見者である Klaus von Klitzing 氏、トポロジカル絶縁体に関する研究で著名な Frederick Duncan Michael Haldane 氏を始めとする世界的に著名な研究者らが参加する大規模な学会であった。特に世界をリードする研究を行う研究者は Plenary Session にて講演を行い、全体的に twisted bilayer graphene や分数量子ホール系におけるエニオンに関する実験に関する講演が目立ち、近年のホットな話題であることを再確認した。また、当方の専門である量子ホール効果に関するセッションは毎日行われるほど研究者が多く、日本物理学会などの国内会議で用意されるセッション数と比較して、その何倍もの専門家が集まっており、それゆえ最近の領域のトレンドについても知ることができた。
ICPSでは当方の専門である量子ホール効果に関する実験の成果を発表した。昨年開発した量子ホールエッジの変形を実時間・実空間でイメージングする手法について説明し、その実験の結果、金属ゲート下において量子ホールエッジが変形する様子がイメージングされたことを発表し、その結果においてエッジ励起が複数の経路に分裂しているような現象が発見されたため、その現象の具体的な発生条件について議論した。発表の際の質疑応答では、エッジの中性モードに対して今回の手法は適用可能か、また今回発表した試料のような構造を利用して量子ホールエッジの重ね合わせ状態を作れるか、などの質問が寄せられた。今回使用しているストロボPL測定系は、エッジ励起がPL強度の時間応答に対して感度がある点を利用しているが、これはエッジ励起が電荷疎密波として伝播する場合に電子密度の時間的な揺らぎがPL強度の時間応答として観測されていると考えられる。したがって、電荷モードではない励起については感度がないと感がられるため、今回の測定系を用いて中性モードを観測することは困難であると予想される。また、後者の質問については、今回の実験ではその点について確証を得ることができないという回答に留まった。エッジの分裂に関しては、半古典的な解釈では不純物ポテンシャルによる確率的な散乱、量子論的な解釈ではエッジ状態の重ね合わせ状態として理解することが可能であるが、今回の測定はフォトンカウンティングを行う古典測定であり、その両者を実験結果から区別することはできない。したがって、今後は今回と同様の構造を持った試料を利用したエニオンの検出など、エッジ状態の量子的な側面を探索することで、今回報告したエッジの分裂がエッジ状態の重ね合わせであることを実験的に検証していく必要がある。
今回初めて海外での国際学会へ参加し、海外の研究者たちのトレンドやマインドについて知ることができる非常に良い機会となった。また、トレンドについては日本と重なる部分もあれば、大きく異なる点がある点は意外で勉強になった(特に量子ホールエッジを用いた量子測定など)。コミュニケーションの点で苦労することも多々あったが、臆せず自信を持って話しかけることの重要性を再確認させてもらえる良い機会となった。また、世界的な研究者が好奇心旺盛で常に情熱的である姿は、博士課程の自分にとてもかっこよく映り、自分もそのような研究者でありたいと感じさせる瞬間であった。