今回参加したThe 22nd International Conference on Ternary and Multinary Compounds (ICTMC-22)は、1973年に初めて開催されてから隔年で開催されてきた。ICTMC-22では、さまざまな三元・多元化合物の物理、化学、成長、特性評価、理論、応用に関するあらゆる話題を扱っており、基礎と応用の両方のトピックが検討される。近年話題となっているペロブスカイト材料の他にもカルコゲナイド材料やワイドバンドギャップ材料、熱電材料、磁性体材料などの幅広い材料を扱っている。
初日と最終日は著名な研究者の招待講演が開催され、これまでの歴史や最近のトレンド、新たな材料に関する知見なども得られた。二日目~四日目は計8セッションの口頭発表が4部屋に分かれて行われた。三日目の午後には全セッション合同のポスター発表が行われ、活発な意見交換が行われた。その日の夜に晩餐会が開かれ優秀なポスターを発表した研究者に対する表彰が行われた。
学会中にexcursionとして万里の長城や頤和園へのツアーも開催された。
本会議において私は、Investigation of the deposition mechanism for SnS thin films using a novel deposition method, “Electrostatic Spray Deposition”という題目でポスター発表を行った。近年、様々なデバイスの高性能化が進み、性能だけでなくコストに関しても注視する必要がある中で、この課題とデバイスに対する課題を同時に解決できるプロセスの探索は必要不可欠である。今回は半導体成膜においては新たな成膜プロセスである静電スプレー法(ESD)という成膜プロセスを使用した。ESDは非真空下で成膜可能であり、安価・簡便であるため材料コストの低い材料と組み合わせることで工業的に有利なデバイス作製が可能となる。また、太陽電池等のpn接合デバイスを作製する際に、薄膜の結晶性や電気特性、組成比などを向上・制御する必要がある。今回は、ESDの半導体材料への応用の一歩目として硫化スズ(SnS)の成膜とSnSに対するCuとSbの添加を行った。結果として、ESDはこれらの要求を解決できる可能性を秘めた成膜法として期待できる。
本会議において、今後ESDでの成膜を検討したい材料について多くの発表を聞くことができた。理論計算やそれを元にした数多くの実験、自身がまだ検討できていない領域に関する議論を聞くことで多くの刺激が得られた。また、各国から招待された著名な講演者の発表は、各分野における最前線の研究で今後数年のトレンドにもなり得る貴重なものであった。そのような発表を直接聞けたことは今後の研究に対するモチベーションにもなった。
いくつかの発表でデバイスの効率向上に向けた検討として、デバイス構造の探索のような大きな視点での検討から単膜に対する改善策の探索のような細かな視点での検討まで幅広く検討されており、今後の研究活動でどのような観点から物事を考えるかという点で役に立つ視点ばかりであった。
発表以外のところでは、英語でのやり取りは非常に新鮮であった。普段は日本語に囲まれ、時折、外国人研究者と会話をすることがあるが、英語だけに囲まれて議論を展開することは今後の人生においてとてもいい経験であった。
今後も自身の研究成果を世界に発信していけるよう邁進していきたい。
最後に、本会議への参加にあたりご支援をいただきました、一般財団法人丸文財団に心より感謝申し上げます。