International Conference on the Physics of Semiconductors (ICPS) は、半導体分野に関わる物理学に注目した、国際会議である。テーマはナノ材料系、炭素素材、トポロジカル物質、エレクトロニクス分野、スピントロニクス分野、そして量子テクノロジーなど多岐にわたる。本会議は2年おきに開催されており、36回目となる今回はカナダのオタワにて行われた。世界中の大学、研究機関および半導体業界の企業などからの専門家、また学生がこの会議に参加し、最新の研究成果や知識の共有、活発な議論を行う場となった。
本会議にて私は、サファイア基板上の単層グラフェンにて観測に成功した、約20μeVに相当するゼロ磁場でのエネルギーギャップに対応する複数の電子スピン共鳴(ESR)信号についての成果を口頭発表にて行った。
グラフェンのエネルギーギャップの導入などに関する理解はグラフェンを用いたデバイスの開発において重要な課題である。本研究では、サファイア基板上の単層グラフェンデバイスに、サンプルに平行な向きの磁場を印加した際に電子スピンのゼーマン分離によるエネルギーを高感度で検出できる抵抗検出ESRの測定を行った。その結果、通常のESR信号に加え、その両肩の位置に特異な信号を発見した。この複数のESR信号は、グラフェンがゼロ磁場において約20μeVに相当すると推定できるエネルギーギャップの存在を示しており、先行研究としてhBN基板において類似した結果が報告されているが、サファイア基板の、かつ特に面内磁場において明確に観測された例はこれまでになかった。本会議での発表では、この測定結果と、この炭素グラフェンの小さなエネルギーギャップがグラフェンの副格子対称性の破れによるもので、その起源として基板による影響、もしくはリップルなどの可能性の議論を報告した。発表後では、同様にグラフェンを研究対象としている研究者の方々と、この測定結果やその原因などについて議論を交わす機会があり、今後の研究に大いに役立つ情報を収集することができた。
今回の国際会議が自分の初めての海外経験であり、初めての研究発表の場であった。口頭発表では緊張があったため、質疑応答にうまく答えられない場面があったなど、自分としては悔いが残る結果となってしまった。しかしながら、第一線で研究を行っている様々な研究者の発表や議論、バンケット等での交流を通して、学術界の生の空気感を感じ、自分の研究や発表へのさらなる熱意を得ることができた。この国際会議での数日間は自分にとって大きな経験であり、この先の研究活動の確かな糧となった。修士1年にもかかわらず、このような機会をいただけたのは、指導教員や先輩のご助力、そして丸文財団の皆さまのご支援によるものだった。この場を借りて心より御礼申し上げます。