1983年設立のEuropean Materials Research Societyは4,000名以上の会員が所属しているヨーロッパ最大級の材料科学学会である。2024年度のSpring Meetingは、Strasbourg, Franceにて5月27日から31日の計5日間開催され、6種類のクラスタ、22種類のシンポジウムに分類される。
本国際学会は単一専門の会議とは異なり、半導体・磁性体材料、有機材料、ナノカーボンなど多種多様な材料の専門家が集まり、活発な議論が行われているという特徴がある。
近年の計算機の消費電力の増大に伴い、省電力化に向けての研究が盛んにおこなわれている。特に、磁性材料を用いた新奇不揮発性メモリの実現はメモリの待機電力の圧倒的削減が期待されている。しかしながら、根幹技術となる「電流駆動磁壁移動」の高効率化が実用化には不可欠である。
Mn4N薄膜は垂直磁気異方性と小さな磁化を併せ持ち、不揮発性メモリに好適な材料として注目されている。また、Mn4N 系混晶では不純物の添加量を制御し、特定の組成で磁化が極小値をとる磁化補償という特異な現象も確認されている。この磁化補償は磁壁移動の効率を爆発的に向上させ、Ni添加Mn4Nでは磁化補償組成付近で3,000m/s(電流密度 1.2 A/µm2)という、室温かつ磁場を使わない条件では世界最速の記録を達成した。
本会議では、バルク結晶での磁化補償が示唆されていたCu添加Mn4Nについて、分子線エピタキシーを用いて高品質な薄膜の作製と、試料振動型磁力計を用いた磁化測定およびX線磁気円二色性測定によるCu添加Mn4Nの磁化補償の検証結果を報告した。
発表後の質疑応答では、ゆっくりではありながら英語で回答することができた。また、実験結果の解釈に対する鋭い指摘と、研究の今後の展開についてアドバイスをいただき、国際会議の高いレベルを実感した。
また、他のシンポジウムやポスター発表を聴講し、機能性材料開発の最先端技術について、現状と課題を知ることができた。私の専門としている磁性材料に関する理解が深まっただけでなく、他材料の報告から自らの課題解決に向けてインスピレーションを得ることができ、貴重な経験となった。英語でのディスカッションは不慣れな部分もあったが刺激的であり、研究者になるために必要なスキルでもあるため、今後も訓練していきたいと考えた。
末筆ながら、本会議への参加にあたり多大なる援助をいただきました貴財団に厚く御礼申し上げます。