私の研究の目標は、トポロジカル超伝導の実現、およびこれを用いた量子情報デバイスへの応用である。具体的には、我々の研究室が創成した材料である鉄ドープ強磁性半導体を用いたトポロジカル超伝導の実現を目標としており、達成することで集積化が可能なエラー耐性のある量子コンピュータが実現できると考えられる。
よって国際共同研究の目的は、トポロジカル超伝導を実現するために必要な要素の一つである、超伝導近接効果の観測である。超伝導近接効果の観測はトポロジカル超伝導の実現に必要不可欠である一方で、ナノスケール微細デバイス加工、および、極低温環境下でのナノアンペアの直流・交流電気伝導測定などの課題に直面しており、観測に至っていない。したがって、当該分野での数多くの先駆的研究が行われてきたニューヨーク大学シャバニ研究室で、デバイス作製と精密測定を含む実験技術の習得、及び、持ち込んだサンプルを用いた実験を通じて、Feドープ強磁性半導体への超伝導近接効果の観測に挑戦する。
共同研究先であるシャバニ研究室では、我々の研究室から持参したサンプルを用いて「ジョセフソン接合」と呼ばれる100nmほどの横型の溝構造を持つ微細なデバイス加工を実施した。このナノスケールデバイスを作製するためには電子線リソグラフィー装置を利用する必要があり、City Universityの共同装置を利用してデバイス加工を行った。その結果、5つのデバイスを作製することができた。加えて、これらのデバイスを用いた極低温環境下でのナノアンペアスケールの電気伝導測定にも挑戦した。作製したすべてのデバイスに対して測定を行うことは滞在期間の都合でできず、現在時点で超伝導近接効果の観測に至っていないため、帰国後もシャバニ研究室及び我々双方の研究室で極低温測定を継続する必要がある。
また、実験以外では私の研究に関する発表、議論の機会もいただいた。そこでは研究に関する議論や助言を通じて、新たな実験方針についても多くの収穫が得られた。
本共同研究では主にシャバニ研究室の博士課程の学生(Lukas Baker氏)と共に実験を行った。1か月半の滞在の間で彼と様々な会話をし、ニューヨークでの生活や、アメリカでの博士課程の話など、多くのことを知ることができた。またシャバニ研究室ではランチの時間に時間の都合のつくポスドク、学生が集まって食事をする習慣があり、その場でも多くの人とコミュニケーションができた。言語(英語)に関しては、TOEFL iBTの点数を93点まで上げて留学に臨み、現地での研究活動で全く問題がなかったわけではないが、大きなトラブルなどもなく国際交流を行うことができたと感じる。同時に、より英語力があればさらに交流の輪を広げられたと感じる部分もあるため、継続的に英語学習を続けていく必要があると考える。
加えて本共同研究を通じて、私の現在の研究課題解決の糸口をつかむことができたと感じており、現地での研究活動を通じて得た経験は私の今後の研究の原動力になることを確信している。また、現地の研究環境という観点からは博士課程の学生が非常に熱心に研究を行っている点や、数人で一つの研究テーマに取り組むためスピード感をもって研究を行っている点が印象的であり刺激を受けた。彼らと国際学会などの場で再会するべく、自身も本研究をより前進させたいと強く実感した。
最後になりましたが、このような貴重な機会をいただいた丸文財団国際交流助成に関わる皆様に心より感謝申し上げます。