The 16th Joint Conference on Magnetism and Magnetic Materials and Intermag (2025 Joint MMM-Intermag Conference) は、AIP Publishingにより毎年開催されるConference on Magnetism and Magnetic Materials(MMM)とIEEE Magnetics Societyにより開催されるIEEE International Magnetics Conference (Intermag) が3年に一度共同で開催される世界最大級の磁性に関する国際会議で、世界中の磁性研究者が一堂に会して最先端の磁性に関する研究成果が報告されます。今回はアメリカのルイジアナ州ニューオーリンズのHyatt Regency New Orleansにて開催されました。
ニューオーリンズはルイジアナ州最大の都市であり、フランスやスペインの統治下にあった歴史から多様な文化が融合されており、衣食住にもその気風が反映されています。
本国際会議では、自身の研究分野に近いThin Films, Multilayers and Exchange Bias Systems、Magnetoelectric Materials and Phenomenaなどの磁性多層膜や磁性の電界変調などに関するテクニカルセッションから、Spintronic Neural Computing、Interdisciplinary and Emerging Topicsなど、磁性を基盤とした情報技術や生物との融合など、様々な分野の100を超えるテクニカルセッションが催されました。この他にも、著名な研究者によるPlenary講演や他の研究者と学術交流の場としてPlenary Receptionなどのイベントが開催され、分野の垣根を超えて多くの研究者が自身の成果を世界にアピールすることができる場であることに加え、今後の科学技術の創発につながるような新たな発想を得ることができる素晴らしい国際会議でした。
次回は70th MMMが2025年10月にPalm Beachで、2026 Intermagが2026年4月にManchesterで開催されることが予定されています。
私は“Anomalous Temperature Dependence of Magnetic Damping”という講演題目でポスター発表を行いました。従来、エレクトロニクスデバイスでは、情報伝送の手法として電子の電荷を用いた方式が一般に採用されてきました。そのため、電荷の移動に伴うジュール熱の発生による大きなエネルギー損失が課題となっていました。また、今後、社会の更なる情報化の加速が見込まれることから、このエネルギー問題を解決することが喫緊の課題となっています。一方で、近年電子のスピン自由度を新たな情報伝送キャリアとして利用するスピントロニクス技術が注目を集めています。特にスピンが波のように伝播するスピン波を利用して情報をスピン波にのせて伝送することで、上記のようなジュール熱に伴うエネルギー損失を回避し、情報伝送の更なる低消費電力化を実現することができます。しかし、現在、この手法ではスピン波が短距離で減衰してしまうことが課題であり、より長距離伝播させるためには、減衰の機構を解明して低減衰の磁性材料を開発する必要があります。私の研究では、減衰が極めて小さい強磁性マンガン酸化物薄膜において、このスピン波の減衰の程度を特徴づける磁気ダンピング定数について温度依存性や基板の影響などについて強磁性共鳴を用いて系統的に評価することで、磁気状態が相転移する際にスピン波の減衰が顕著になることが見出されました。ポスターを見に来て下さった方からは、測定方法や具体的なスピン波の減衰メカニズムについて質問をいただき議論することで将来の研究の方向性を考えるための情報を収集することができ、非常に貴重な経験となりました。
本国際会議は多くの口頭セッションやポスターセッションから構成され、特にポスターセッションは3時間と非常に長い時間を与えられたため、マンツーマンでじっくりと他の研究者の研究内容について聴講し、議論することができました。中には自身の研究と関連した研究発表もあり、例えば多種元素合金(Multi-Principal Component Alloys)と呼ばれる従来にはない合金であるAl0.25CrFeCoNi薄膜に対する磁気ダンピング定数の評価についての研究などは興味を惹くものでした。ダンピング定数の評価方法として、強磁性共鳴によるマイクロ波吸収線幅と共鳴周波数との関係を評価する方法がありますが、共鳴周波数の増加とともにこの線幅が正弦波のように振動的に変化する現象が報告されていました。類似の現象は自身の強磁性マンガン酸化物薄膜においても確認されておりますが、その原因は全く理解されておらず、これについて言及する既往研究も報告されていません。今回、この研究者と議論する中で、自身と同様の疑問を抱いている研究者がおり、この影響が大きいときには磁気ダンピング定数の定量化法に修正が必要になる可能性があることから、早急に原因究明をしなければならない課題であることを再認識しました。
また、自身の研究内容に興味をもっていただいた研究者と名刺交換をするなど、今後の共同研究に繋げられるように意識した国際交流を行うことができました。口頭セッションでも、多くの興味のあるセッションに足を運び聴講しました。自身と関連のある研究内容については問題なく理解でき興味をもつことができました一方で、関連性の少ない研究内容や速いプレゼンテーションでは英語の聞き取りが難しくなることが多々ありました。次回の参加に向けて、さらに英語のリスニング力を鍛えて他分野の研究についてもより広く理解し、新たな研究領域の拡大につなげていきたいと考えています。