International Conference on Emerging Advanced Nanomaterials (ICEAN) は、オーストラリアのニューカッスル大学に属する研究センター、Global Innovative Centre for Advanced Nanomaterials (GICAN) の主催の下、ナノマテリアル分野に従事する研究者が世界中から集まり、隔年で開催される国際学会です。今回は2024年11月4日から8日の5日間にかけて、ニューカッスル所在の会議場The NEXにて開催されました。ニューカッスルは、シドニーから電車で3時間のNSW州第二の都市であり、サーフィンの世界大会も催される非常に美しいビーチを有します。本会議では、再生可能エネルギーから電子部品、医療分野まで幅広い20分野のセッションにおいて、2名のノーベル賞受賞者講演を始めとする300件以上の基調講演・招待講演、120件以上の口頭発表、100件以上のポスター発表が行われました。
次回は2026年、同様にオーストラリアでの開催が予定されています。
本会議では、パラジウム (Pd) ナノシートの新規合成手法とその触媒特性評価について発表を行いました。ナノシートとは、原子数個分の薄さを持つシート状物質です。Pdナノシートは、原子の高い表面露出率と特異的に高い触媒活性が発現することから、もともとPdの有する幅広い触媒特性はそのままに、Pdを触媒材料として効率的に利用することが可能となります。しかしその合成に毒性の高い一酸化炭素ガスを必要とし、不純物の混入が非常に起こりやすいことから、Pdナノシートの合成は非常に困難でした。そこで、今回発表を行った研究内容として、まず有機物を一酸化炭素源としたワンポット合成により、Pdナノシートを安全かつ簡便に合成する手法を開発しました。さらに合成されたPdナノシートを結晶成長核とし、その厚みを精密に制御することによって、膜厚の変化に伴う特性変化の分析を可能としました。膜厚の制御されたPdナノシートに対して、X線光電子分光および第一原理計算を用いた電子状態評価を行うことによって、Pdナノシートがその膜厚の減少に伴い特異な表面電子状態を発現することを解明しました。これらの分析内容を電気化学触媒特性評価の結果と比較することにより、Pdナノシートの触媒特性に寄与する電子状態を解明しました。更に電気化学原子間力顕微鏡を用いた測定により、Pdナノシートがそのエッジサイトにおいて特に高い触媒活性を有することを解明しました。
また質疑応答においては、自身の研究対象であるPdナノシートと比較を行うべき物質や、測定上の注意点など、今後の研究方針に対する有意義なアドバイスを多くいただくことができました。
今回、国際会議ICEANに参加したことで得られた一番の経験は、各分野のユニークな研究を先導されている研究者の方々との交流です。自身と同じ分野の研究者の方の発表では、例えばその研究を論文としては読んだことのある研究でも、実際にその著者の方がどのような事を考え、どのようなアイデアからその研究成果に至ったのか、その思考の過程について実際にお話を伺うことができたのは、国際学会でなければできない経験であると考えます。また本会議はナノ材料に関する幅広いセッションを開催していたため、普段自身が触れない研究分野の発表を聴講することで新たな着想を得ることもできました。
最後になりますが、今回このような貴重な経験をする上で、海外渡航にあたり多大なるご支援を賜りました丸文財団様に深く御礼申し上げます。