この度、2023年7月30日から8月3日にかけてMagnonics 2023に参加し、ポスターによる研究発表を行なった。Magnonics conferenceは、2009年ドイツのDresdenでの開催を第1回目として隔年での開催で、今回は8回目である。Magnonicsは、スピン波を量子化した準粒子であるmagnonを対象とした研究分野であり、応用、基礎物理の両方の観点から期待される新進気鋭の分野である。8回目である今回は、過去最大の参加者数を記録し、年々規模を大きくしていく学会だと考えられる。
申請者の研究対象は、超薄膜強磁性金属における磁化緩和の制御である。超薄膜強磁性金属においては、界面からの寄与が支配的であり、電界ゲート印加による磁性の変調の報告が為されている。磁性はマグノンの運動を特徴づける性質であり、電界ゲート変調可能な超薄膜強磁性金属のマグノンは、ゲート変調性を獲得しマグノンのデバイス化を促進させることが期待できる。一方で、超薄膜強磁性体におけるマグノンは界面の効果によりマグノンの緩和が大きく増大しコヒーレンス時間が短くなるという問題があった。申請者は超薄膜Coの下地層を変え、界面磁気異方性を変調することで2nmの超薄膜Coにおけるマグノン緩和をバルクと同程度にまで抑制することに成功した。この研究は超薄膜強磁性体における低マグノン緩和を実現するための指針を提示するものであり、電界ゲート制御可能なマグノン系の実現に大きく貢献する結果である。
主な討論内容は、その制御原理についてが多かった。緩和の主な寄与はk=0のマグノンモードがk≠0のモードに遷移する2マグノン散乱が支配的であり、この寄与は強磁性体の膜厚の二乗分の一に比例する。またその係数の大きさは界面磁気異方性の二乗に比例する。今回の研究ではCo膜の界面磁気異方性を抑制することで、2マグノン散乱の寄与をほとんどゼロに抑えることができた。
ポスターには多くの人が訪れてくださり、2-3時間あったポスター発表時間をほぼフルで使っていた。改めて今まで自分が行なってきた研究が多くの人ではないにしろ何人かの人にとっては有意義なものであるということが実感できた。また同世代の博士課程の学生や当該分野における著名な研究者との国際的なコミュニケーションを取ることができ、自分の顔を知っていただく良い機会になったと感じている。
最後に、本会議への参加にあたり貴財団から多大なご支援をいただきましたことを心より感謝申し上げます。