MRSは1973年から毎年春と秋にアメリカで開催される、世界で最も大規模な材料科学に関する国際会議である。討議内容は様々な材料に関する基礎物性から応用や理論計算まで多岐にわたり、世界中から最先端の研究を行っている著名な研究者が集まり、様々なトピックに関して発表および議論される。今年は64のセッションが開催され、機械学習やクリーンエネルギーに関するセッション等様々な分野で精力的な議論が行われていた。
私の研究対象である強誘電体分野に関しては、3日間にわたり、コンベンショナルな構造の材料から新規材料まで多くの参加者により発表されており、世界的に注目を集めている研究を行っていることを自覚できた。また、まだ論文で発表されていない実験結果や計算結果に加え、現地の対談でしか聞けない細かい実験方法などの情報も交換することができ、非常に重要な知見を得ることができた。
来年は、ワシントン州シアトル(4/22-26)およびマサチューセッツ州ボストン(12/1-6)にて開催される予定である。
本学会では、“ Characterization of Ferroelectric Switching Properties for (Al,Sc)N Films with Various Composition”という題目でポスター発表を行った。
近年では、クラウドやAIの進化により次々に生産されるビッグデータを記憶しておくメモリ技術はさらなる進歩が求められる。メモリ材料における種々の課題を解決するために、新規強誘電体材料として期待されているウルツ鉱型(Al,Sc)Nの不揮発性強誘電体メモリへの応用が注目されている。本研究では、メモリデバイスの高速動作に不可欠な(Al,Sc)N薄膜の分極スイッチング特性に関して、初めてスイッチング特性を体系的に示し、分極反転挙動の物理モデルを構築した内容である。さらに、その分極反転の起源及び積層膜のユニークな反転モデルの提案は、次世代強誘電体デバイスの可能性を切り開く重要な研究である。
研究成果を強誘電体分野に関して世界で最高峰の国際会議として位置付けられるMRSで発表し、世界の研究者と議論できたことは非常に有意義で価値のあるものであった。さらには、自身の発表を評価していただき、Best Poster AwardのNomineeに選出されたことは、これまでの研究内容およびその成果に自信を持つことに繋がった。研究内容の質疑応答を通じて、専門分野の異なる研究者から異なるアプローチや結果に対する考え方を学べたことは非常に貴重な経験であり、今後の研究生活の糧となると感じた。
最後に、この度の国際会議の参加に際して、多大なご支援をいただいた貴財団に心より感謝申し上げます。