ICNSは、窒化物半導体の基礎物性やデバイス応用に関する研究を対象とした国際会議である。会議冒頭の天野浩先生による特別講演では、GaN系半導体の研究領域を発展させることを目的として、1995年頃に赤崎勇先生らによってTopical Workshop on III-Ⅴ Nitrides (TWN) が立ち上げられたことが紹介された。そして、このTWNを端緒として、ICNS、International Workshop on Nitride Semiconductors (IWN)、および、International Symposium on Growth of III-Nitrides (ISGN)などが立ち上げられ、現在に至るとのことであった。
ICNS-14では、結晶成長、物性、光デバイス、および、電子デバイスの区分のもとで、口頭発表およびポスター発表にて活発な議論がなされた。報告者が聴講したセッションでは、Snドープによるn型GaN基板の実現、高圧アニールによるGaN中のMgアクセプタの活性率の増大、高耐圧かつ高速な電子デバイスへの応用が期待されるAlNへのn型ドーピングの手法、そして、深紫外発光ダイオードへの応用が期待されるAlGaNへの短周期超格子の導入による低抵抗化などに関する研究成果が報告されていた。
主催者発表によると、出席者は1,200名程度とのことであった。また、口頭発表は450件程度、ポスター発表は500件程度とのことであった。本国際会議は隔年での開催であり、次回は2025年7月にマルメ(スウェーデン)にて開催予定であることが告知されている。
“High Thermal Coefficient Resistance for Heavily Si-doped GaAsN after Annealing”という題目にて、ポスター発表を行った。
本研究では、微細化されたボロメータの実現のために、薄膜サーミスタの需要が高まっていることを背景として、アニールした高濃度SiドープGaAsNにおける抵抗温度係数を議論した。結果として、N組成の減少にともなって、アニールした高濃度SiドープGaAsNにおける電子の活性化エネルギーが増加したことにより、抵抗温度係数が増加した。この要因として、N組成の増加にともなって、SiドープGaAsN混晶に対する引張歪みが増加することを指摘した。
ポスターセッション中には、数名の聴講者が訪れた。また、ポスターセッション前には、付近の発表者と交流した。ICNSが窒化物半導体を対象としているなかで、本研究ではホスト原子としてNを含まないN添加混晶であるGaAsNに着目していたため、GaAsNの基礎物性について複数の聴講者より質疑があった。特に、GaAsNに固有な局在準位へ電子が落ち込むことにより、電子の活性化エネルギーが増加するとの解釈に対して、局在準位が形成される機構について質疑があった。この質疑については、報告者自身による研究結果や、外部の報告による解釈を回答した。また、高濃度SiドープGaAsNのアニールと抵抗温度係数の増加との因果関係についても質疑があった。この質疑については、高濃度SiドープGaAsNをアニールすることによって、電子の活性化エネルギーが増加することに加えて、電子移動度の温度係数も増加することを回答した。さらに、本研究で得られた2%/Kの抵抗温度係数について、他の材料系との優劣を問われた。この質疑については、ナノ構造の導入や集積化の観点も含めて、本研究と外部の報告との相違点を回答した。
これまでに出席した国際会議では、国内学会でも面識がある方や、閲覧したことのある原著論文の著者との討論が主であった。これに対して、報告者が対象とするN添加混晶とICNSが対象とする窒化物半導体では、結晶構造や応用先が異なるため、ICNSでは初見の方との討論が主であった。このこともあり、発表に対する質疑の多くが研究の全体像や将来展開を問うものであった。英語力の不足により、相手が日本人であった場合には日本語も交えた回答になるなど、コミュニケーション面での反省も多かった。
最後に、本国際会議への出席にあたって、貴財団より多大なご支援をいただきましたことについて、心より感謝申し上げます。