国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和5年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
戸田 圭一郎
(東京大学 理学系研究科附属 フォトンサイエンス研究機構)
会議名
SPIE Photonics West 2024
期日
2024年1月27日~2月1日
開催地
The Moscone Center, San Francisco, California, USA

1. 国際会議の概要

SPIE Photonics Westは、フォトニクス研究においてはCLEOなどと並んで最も大きな国際学会の一つであり、年1回サンフランシスコで開催される。中でもBIOSと呼ばれるバイオフォトニクス関係の研究分科会は、「最先端バイオイメージング、センシング技術」に重きを置いているため、我々の研究テーマと非常によくマッチしている。私はこの学会に参加したのは始めてだったが、非常に多くの学びを得ることができた。

BIOSの中で我々のテーマに深く関わる技術としてはAdvanced chemical microscopyとQuantitative phase imaging (QPI)が挙げられる。どちらも前半の3日間(1/27-1/29)関連セッションが行われており、双方を行き来しながら、最先端イメージング技術を学んだ。Advanced chemical microscopyは分子振動を使った非標識化学イメージングで、蛍光顕微鏡などの標識が必要な顕微鏡が有する欠点を持たない。具体的にはラマン顕微鏡がメインであるが、ここ数年で、我々が行っている中赤外フォトサーマル顕微鏡がセッションの1/3程度を占めるようになった。また、最近では蛍光と分子振動過程を組み合わせた高感度化学顕微鏡も注目されていて、それに関する発表も聞くことができた。QPI関連ではFourier PtychographyやMultiple scatteringを考慮したOptical diffraction tomographyなど、我々が完全にフォローできていない技術に関する招待講演を聞き、我々が向う研究の方向性に関してもう一度考え直す良いきっかけとなった。関連セッションの全てに出席することは不可能だったが、共に参加していた後輩などと情報共有を行うことで、できるだけ重要研究を漏らすことなくチェックした。

後半の日程では、主に量子光源を用いた顕微鏡技術に関する発表を聞いた。QPIや赤外顕微鏡など我々の技術と量子光源の組み合わせで得られるメリットを考えながら情報を得ることができた。そのうちの幾つかは、試算などを行って検討していきたいと考えている。


左: 会場(Moscone center), 右: レセプション

2. 研究テーマと討論内容

私はIntracellular heat conduction and heat-induced temperature change measurements with mid-infrared photothermal optical diffraction tomographyという題目で1/29にAdvanced chemical microscopyセッションで口頭発表を行った。大学院生時代から行っている中赤外フォトサーマル顕微鏡(中赤外吸収による局所的な温度変化を、可視光顕微鏡を用いて高解像度で画像化するイメージング技術)を単一細胞温度生物学に応用した研究であり、蛍光ナノ温度計で観測された細胞内における1K以上の温度分布が水環境下を仮定した熱伝導計算の理論値と約5桁合わない“105問題”と呼ばれる謎に、非標識顕微鏡を用いて迫る。具体的には細胞内熱伝導パラメーターを測定したり、加熱による温度変化計測を蛍光ナノ温度計と直接比較した。我々の考察としては、蛍光ナノ温度計で測っている温度は熱伝導計算に用いられるような熱平衡状態の温度とは異なっており、それによって上記のような問題が起きているのではないかというものであったが、それに対して、「蛍光が感知している5桁も異なるエネルギーとは何なのか?」という質問が来た。それを示すようなデータは手元にないので、我々としてもその点は将来的に考えていくべき問題であるというような回答をしたが、まだ、具体的な研究計画が固まっているわけではないので、帰国後はそれについて少しずつ考え始めている。

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

コロナ禍を挟んでの久々の国際学会口頭発表ということもあり、英語での発表準備には苦労したが、発表自体は問題なく行うことができた。問題となる英語での質問対応に関しては、課題がいくつか見つかった。おおよその意志疎通を図ることはできたが、相手の意図に対して完全な解答を英語で表現することができなかった。ある程度準備をしたつもりだったが、リスニング能力の課題も見えたので、次の国際学会に向けて英会話の学習時間を大幅に増やしていこうと考えている。

また、似た分野の研究室の同世代のメンバーとも交流することができた。国際学会における他研究室との交流は、自分が行っている研究における有益な情報が得られるだけではなく、今後のキャリアを考える上で自分の認知度を高めることにもつながるので、より積極的に行なっていきたい。また、有名研究室の優秀な学生や若手のポスドクを何人か知ることができた。これは普段あまり知る方法がない情報なので、これを期に彼らの研究の動向は追っていきたいと考えている。

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