Acoustical Society of America (ASA) は、1929年に設立されたアメリカ物理学協会のアメリカ音響学会が主催する音響に関する国際会議です。音響学とその実用的な応用に関する知識の生成、普及、促進を目的として活動しています。今回はAustralian Acoustical Society (AAS) との共催で、185th Meeting of the Acoustical Society of Americaだけでなく、2023 Meeting of the Australian Acoustical Society、2023 Western Pacific Acoustics Conference、2023 Pacific Rim Underwater Acoustics Conference も兼ねており、例年のASAの国際会議よりも規模の大きいものとなっております。会場はSydney, AustraliaのInternational Convention Centre Sydneyで、2023年12月4日から8日までの5日間にわたり開催されました。例年通り1,000人以上もの研究者が参加し、音響医学や海洋音響学など10の異なる分野に分かれたセッションが並行して行われました。また、最初の3日間では、様々な音響デバイスの企業ブースが出展されていました。
次回のASAは Ottawa, Canada で2024年5月13日から17日までの5日間にわたり開催される予定です。
本会議にて“Focus control of a concave ultrasonic gel lens”という題目で発表を行いました。内容は音響放射力を用いてゲルの形状を変化させる超音波ゲルレンズの径方向制御の検討です。
現在、更なる小型軽量化が期待される電子デバイス市場において、カメラモジュールの薄型化は大きな課題として挙げられています。機械的可動部を持たずに焦点制御が可能なレンズである超音波ゲルレンズは、ガラス基板、圧電素子、ゲルフィルムのみの単純構造であるため、従来の機械式可変焦点レンズと比較して劇的な薄型化が可能です。しかし本ゲルレンズは駆動電圧により、軸対称にレンズ形状が変化するため、光軸に沿った焦点制御のみが可能です。現在一般的に利用されている光学式手振れ補正では、外部振動に合わせてレンズやセンサ位置を補正移動するアクチュエータが必要となるため、小型化が難しい状況です。
そこで本報告では、共振周波数近辺の周波数において4分割した振動子の駆動電圧比を制御することにより、凹凸両用可変焦点ゲルレンズの径方向への焦点制御について検討しました。試作機のレンズ表面は、4つの振動子を同相駆動した場合凸状に、振動子間駆動位相差が90°の場合凹状にそれぞれ変形します。各モードにおいて、レンズの振動分布、ゲル表面の変形形状を測定し、光線追跡によるシミュレーションから径方向への焦点位置の移動を算出しました。これらの実現により、ギアやアクチュエータを必要としない手振れ補正技術の実現によって、カメラモジュールの小型化が期待されます。
研究内容は従来のものと全く異なるレンズ機構であり、ゲルの形状変化についての対称性や維持方法、凹凸の微細な調節など、発表後、異なる分野で研究を行っている方々からの質問を受けました。議論を重ねる中で、本レンズの向上させるための深い知見を得ることができ、自身の研究者としての視野を拡げることで、大変勉強になりました。とても温かい雰囲気中で発表や討論を行うことができました。
会議では5日間にわたってオーラルセッションとポスターセッションが行われ、私は最終日にオーラルセッションでの発表を行いました。発表内容と異なる分野を専攻している方々からの、様々な角度からの意見に刺激を得ることができました。
また、研究発表以外において、学会が開催しているイベントに積極的に参加しました。学生主催のイベントとして、1日目の夜には立食形式での交流会があり、その後にはシドニーの景観を楽しみながらの散歩をし、ビリヤードを楽しみました。2日目には会食中にオリエンテーションでクイズ大会が行われ、音響学会ならではの音に関する問題や、イントロクイズ、シドニー開催にちなんだオーストラリアクイズなど学生同士の親睦を深める機会になりました。学会主催のイベントとしては、2日目にジャズバーを貸し切った参加者同士のセッションや、3日目のディナーなど学生だけでなく、研究者たちとも親睦を深めることができました。交流会後には、仲良くなった各国の学生の研究発表を聞きに行ったり、自身の発表を聞いてもらえたりと、交流を深めることもできました。この会議での経験は、私の研究者としての成長に大いに貢献しました。異なるバックグラウンドを持つ研究者たちとの交流を通じて、自身の研究に新たな視角を加え、国際的なプロジェクトへの参加に向けた有益なコネクションを築くことができました。初めての国際会議で、新鮮なことばかりでとても有意義な時間を過ごすことができました。今後の研究活動において、この経験を生かし、さらなる学術的成果を目指していきたいと思います。
最後に、ご支援を賜りました一般財団法人 丸文財団の皆様に心より感謝いたします。