1974年に始まったInternational Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves (IRMMW-THz) は、超高周波エレクトロニクスとその応用分野に特化した最高権威学会の一つである。会議は3年周期でアメリカ、アジア、ヨーロッパでの持ち回りであり、赤外線、ミリ波、テラヘルツ波領域と関連分野における科学的・技術的知識の世界規模での収集、普及、交換の促進を目的として掲げている。宇宙科学から核融合、近年では化学や生物学に至るまで、多種多様な専門性を誇る研究者が集まるIRMMW-THz会議は、テラヘルツギャップの克服を最重要課題の一つに据え、その歴史的な役割に尽力してきた。48回目の開催となる今回はカナダ、モントリオールで行われ、34カ国から700を超える論文が提出された。
発表内容の概略
「All-printable stretchable broadband photo-thermoelectric camera sheets」の題目でポスター発表を行った。これはミリ波~赤外線までを検出可能な超広帯域カメラシートの創出と、立体非破壊検査応用モデルの実証に関する成果をまとめたものである。
昨今の超スマート社会構想に代表されるような工業・産業・流通の全自動化に向け、革新的な非破壊検査技術の拡充が求められている。なかでもミリ波・テラヘルツ波・赤外線は電波と光の中間周波数帯域に位置しており、電波由来の透過性と光由来の直進性を両立するため、非接触な検査に特化している。そこで以前我々は、無数のカーボンナノチューブ(CNT)を繊維状に成膜することで発現するフレキシビリティと、室温でミリ波から可視光までの電磁波を超広帯域にカバーする高効率吸光特性を活かした、撮像シートの創出に成功した。一方で社会実装に向けては、リアルタイムでの撮像を可能とするカメラ素子への拡張が必須課題であり、新規の素子作製手法導入が急務であった。これを受け本研究では、液体素子材料と印刷技術が高い親和性を示す点に着目し、CNT分散液を基軸とした撮像素子の全印刷作製に成功した。さらに、印刷技術の実装による素子基板選択性の向上を活かし、光イメージングと歪みセンシングを両立する、マルチモーダルなストレッチャブルカメラシートの提案と実証を行ったためこれを報告した。
発表には10名ほどの聴講者が訪れ、多角的に議論を交わすことができた。聴講者によって興味を抱くポイントが大きく異なったため、議論を重ねるごとに新たな発見が生まれた。以下、聴講者との討論内容の一部抜粋である。
聴講者との討論内容
Q1:ミリ波~赤外線までをカバーできるセンサを作製するメリットは?
A1:既存のインフラ設備や工業製品の多くは様々な材質を含む多層構造を取っているため、多波長計測を行い、各帯域における主要工業材質の固有スペクトルを読み取ることで、被写体材質の識別が可能となる。
Q2:CNT膜型カメラシートでの単一波長検出における、市販デバイスへの優位性は?
A2:素子作製に既存印刷技術が採用可能であるため、非常に簡便かつ環境負荷の小さいプロセスとなる。さらに薄膜軽量かつストレッチャブルな室温動作デバイスであるため、検査環境への実装が容易であり、ユビキタスな立体非破壊撮像が可能となる。
ポスター発表では多くの参加者に興味を持っていただき、活発な議論を交わすことができた。英語での発表は自身の英語力の未熟さを痛感する場面もあったが、ジェスチャーを交えながら、できるだけ簡潔で伝わりやすい表現を選ぶよう努めた。なかでもテラヘルツ波のセンシングデバイス開発を研究する参加者には、カーボンナノチューブの材料的な優位性や印刷技術の汎用性をアピールするとともに、専門的な見地からアドバイスもいただくことができた。
また、本学会では聴講者としても非常に有意義な時間を過ごすことができた。ポスター・口頭発表ともに多種多様なテーマで溢れており、ミリ波~赤外線領域における研究課題の多さを改めて実感するとともに、その奥深さや面白さを再確認することに繋がった。
最後となりますが、経済的な不安なく入念な発表準備をこなし、時間的にも精神的にも余裕を持って国際会議に臨めたのは、貴財団のご支援に尽きます。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。