Materials Research Society (MRS) は、1973年に米国ペンシルベニアで設立された世界最大規模の材料学会で、毎年春と秋に国際会議が開催されている。今年度のFall meetingは2023年11月26日から12月1日までボストンで行われた。
討議内容は合成・評価法の開発、基礎物性からデバイス応用まで多岐にわたり、64のシンポジウムに米国内外から数千人の材料科学者が参加して活発な議論を行った。
2023年はMRSの設立50周年にあたることから、記念祝賀会などの特別なイベントも催されており、華やかな雰囲気であった。
今回の会議では、Symposium EL11 (Ultra-Wide Bandgap Materials, Devices and Applications)において、“ Evaluation of Band Alignment of Rutile Sn1-xGexO2 by XPS”という題目で口頭発表を行った。
超ワイドギャップ酸化物半導体であるルチル型Sn1-xGexO2は、第一原理計算によって予想される浅い価電子帯上端(VBM)に起因するp/n両極性ドーピングの可能性や、バンド構造制御に基づくヘテロ構造デバイスへの応用が期待されている。しかしながら、これまでルチル型Sn1-xGexO2のバンド端の位置を実験により調べた報告はなかった。今回の発表では、組成比の異なるルチル型Sn1-xGexO2の単結晶薄膜を合成し、XPSで価電子帯のスペクトルを測定することで、ルチル型SnO2にGeO2を60%固溶することでVBMが約0.5 eV上昇することをはじめて実証した。さらに、光学吸収スペクトルから算出したバンドギャップと合わせて、伝導帯下端(CBM)も約0.8 eV上昇していることを見出した。
この結果は、理論計算により予想されていたVBMの上昇を実験により初めて定量的に明らかにしたものである。また、我々が以前にTa添加Sn1-xGexO2薄膜で見出した、Ge量の増大に伴うドナー不純物(Ta)の不活性化の機構を説明する点でも重要な成果である。
これまでMRS meetingを含む国際学会でポスター発表を行った経験はあったが、口頭発表は今回が初めてであった。国内学会では、口頭発表者の多くは学生だが、本学会では発表者の多くがポスドクや大学教員であった。これら一流の研究者達に混じって成果を発表し、質疑応答や会場での議論を通じて交流できたことは得難い経験であった。
また、自身の発表以外にも、実験自動化に関する基調講演をはじめとして、材料科学のホットトピックに触れることができ、研究者としての視野が広がった。今回の学会参加を通じて得られた貴重な知識や経験を今後の研究に生かし、再び成果発表ができるよう努力したい。
最後に、本会議への参加に際し多大なるご援助を賜りました丸文財団に心より感謝申し上げます。