Gordon Research Conference (GRC)は1931年に創設され、年間395回を超える生物学、化学、物理学、工学、関連する科学技術の研究会議が開催されている。会議は応募者の中から会議の議長によって選ばれた最大200名の参加者に限定され、各分野で最新の未発表研究についての緊密な議論を趣旨としている。
今回参加したGRCは“Electron Spin Interactions with Chiral Molecules and Materials”というテーマで、アメリカのニューハンプシャー州で6日間開催された。本会議では毎日8:30~21:30の間に各分野を代表する研究者による招待講演とポスター発表が行われ、研究者同士の活発な議論が推奨された。このテーマでの次回の会議は2025年に開催が予定されている。
私はらせん分子のカイラル誘起スピン選択(Chirality induced spin selectivity : CISS)効果について研究を行っている。DNAのようならせん状の分子は、右巻きと左巻きでカイラリティが区別される。このようなカイラル物質に電子を透過させると、カイラリティに応じたスピンをもつ電子のみが選択的に輸送される現象がCISS効果である。この現象を利用したスピン量子デバイスは低消費電力であることから現在活発に研究がなされている。
本会議ではCISS効果に関連して、分子のカイラリティによって強磁性基板への吸着率が異なるというエナンチオ選択性に焦点を当てた理論研究の発表を行った。
発表では、系の時間反転対称性を満たすためには原子内スピン軌道相互作用が重要な役割を果たすが、その時間反転対称性のためにスピン分極が起こらないことを示した。これを破るために強磁性基板を模した一様磁場を加えることでスピン分極とエナンチオ選択性との関係を議論した。
この最後の結果に関しては今回初めて公開した内容だったこともあり、多くの質問やコメントをいただいた。スピン分極に関して明確なカイラリティ依存性が現れていることに関しては好意的な反応が多かった。一方で、数値計算の結果が非対称性になるのはなぜか、磁場を分子端だけに作用させた方が自然ではないか、現実的な実験と比較するために時間変化する電場を入れてはどうかなど、意見や提案をいただくことができ、今後の研究に関する非常に有意義な討論となった。
本会議は研究者同士の議論に重点を置いており、ポスター発表の時間は2時間を計2日間設けられていたため非常に多くの方々と議論を交わすことができた。特に、普段私は理論研究を行っているため、実験家の研究者からの実際の測定に即した意見は大変貴重なものであった。また、本会議では会食形式で3食すべて提供されるため、研究以外にも各国の日常生活や文化についても食事を囲み雑談しながら情報交換ができた。
議論をする上で英語に関しての課題を多く感じた。言いたいことが伝えられないもどかしさもあったが、私の話す拙い英語を一生懸命聞いてくれ、会話ができた喜びは英語学習へのモチベーションになった。同時に英語力向上において英語が必要不可欠な状況に身を置くことの重要性が、一週間という短い滞在期間ながらも強く感じられた。初めはひとりで海外へ行くことに不安も大きかったが、全体を通してとても良い経験になった。
最後に、本会議へ参加するにあたり貴財団より多大なご支援をいただきましたことを心より感謝申し上げます。