Asian Photochemistry Conference(アジア光化学会議)は、隔年でアジア諸国において開催される国際研究集会であり、広範な学術分野における光化学を主眼とする研究発表がなされる。毎回、アジア諸国の光化学の第一線の研究者が講演者として招待され、口頭・ポスター発表を含めて300名程度が参加する。今年度はメルボルン大学のTrevor Smith教授とPaul Mulvaney教授が議長としてオーストラリアのメルボルンで開催される。化学・物性物理・生命科学・材料科学などの様々な学術分野において光の関わる基礎から応用研究に携わる研究者が一堂に会する。
本学会において私は金属ナノクラスターの近赤外発光活性化とそのメカニズムに関して口頭発表を行った。
【題名】
“ Excited state engineering in silver nanocluster for bright near-infrared emission via silver complexes modification”
【研究テーマ】
金属ナノクラスター (NC) は合成の簡便さと生体毒性の低さから、基礎研究から応用研究に至るまで盛んに行われている。中でも発光特性に関する研究はここ十数年注力されてきたが、依然NCの発光量子収率 (PLQY) は数%程度と低く、さらにエネルギーギャップ則の存在から近赤外域における高いPLQYを示すNCの開発は困難を極めていた。本研究ではNCの構成金属原子や配位子に対してアプローチする従来手法とは異なり、NCのイオン性に着目し、クラスターにおけるイオン間相互作用を強化することで、PLQYが40倍近く上昇しながら発光波長が近赤外域へとシフトする現象を発見し、その機序解明を行った。具体的には過渡吸収スペクトル及び温度依存性発光スペクトル測定により、励起状態緩和過程の議論を行った。本現象はイオン性という多くの物質が有する性質に着目したものであるため、他の研究分野との親和性も高く、革新的な光機能開拓手法として期待される。
【討論内容】
発光波長を変化させることは可能か、励起三重項状態からの遷移の時定数についての妥当性について質疑応答を行った。
普段触れ合う機会のない分野の方々が行う発表は興味深く、自身の研究テーマとの親和性・発展性を考える機会を与えてくれた。
国際会議の参加はこれまでに6件行ってきたが、今回は初めての対面口頭発表であった。これまで質問に対して伝えたいことを述べることができていたので、今回も何とかなるだろうと高を括っていた。が、1つ質問を聞き取ることができず悔しい思いをした。ポスター発表ではノンバーバルなコミュニケーションに頼ることができるが、口頭発表では質問者との物理的な距離があるためにそれが難しい。過大評価していた自身の英語力を正しく認識し直すいい機会となった。
メルボルンはカフェの街として有名であるが、朝の一杯はその日の活力を与えるだけでなく、気さくな店員との会話を楽しむことで自身の視線・気分も上げてくれる。落ち込みやすい私にとってはとても過ごしやすい街であった。
最後に本会議の参加に際し多大なるご支援を賜りました貴財団に心より感謝申し上げます。