The 36th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS 2023) はMEMS分野最上位の国際会議である。今年は2023年1月15日~19日にドイツのミュンヘンで、バルセロナ自治大学のNúria Barniol教授とロバート・ボッシュのFranz Lärmer氏をチェアとして第36回が開催された。本会議は、600名以上の参加者があり、200件以上の論文が査読を経て口頭またはポスターで発表される。また発表はシングルセッション形式で行われ、参加者、発表者、出展者間の交流の機会が十分に設けられている。本年度は投稿された636件の論文のうち314件の論文が採択され、口頭発表が70件、ポスター発表が244件であった。発表分野は、機械・熱・磁気的センサおよびアクチュエータから、光学マイクロデバイス、流体マイクロデバイス、医療用マイクロデバイス、化学分析マイクロシステム、環境発電マイクロデバイスまで多岐にわたる。
来年度は2024年1月21日~25日にアメリカ テキサスで開催予定である。
発表題目:Transfer Length Methodによるガリンスタンと銅間の接触抵抗の高精度計測
発表内容:本研究では液体金属と固体金属間の接触抵抗をTransfer Length Method (TLM) により高精度に測定するための測定配置を提案した。液体金属を用いた曲げ・伸縮変形可能なストレッチャブル電子デバイスでは、液体金属と電子素子や電極といった固体金属間の接触抵抗が重要である。従来のTLMによる接触抵抗計測では、半導体や導電性接着剤といった導電率の低いターゲット材料を配線として用い、導電率の高い固体金属電極に接触させる。しかしながら、液体金属は固体金属と同程度の導電率を有するため、液体金属の測定配置は自明ではない。そこで本研究では、TLM計測における液体金属および固体金属の配置を検討した。その結果、シート抵抗に着目し、薄くシート抵抗の高い固体金属配線に、厚くシート抵抗の低い液体金属電極を接触させた配置によって、液体金属配線に固体金属電極を接触させた配置と比較して、接触抵抗の計測誤差が53.8%低減できることが明らかになった。本研究によってストレッチャブル電子デバイスの高性能化・高機能化が加速することで科学技術の進展に大きく寄与できるだけでなく、従来計測不可能であった曲面や伸縮面における環境情報や生体情報の計測が可能となれば学術研究発展の観点からも大変意義深い。発表では、接触抵抗計測方法の他にも液体金属の伸縮性や導電性、経時安定性に関する質問を多く受け、液体金属への興味の高さを改めて認識した。また、接触抵抗の計測方法の説明は複雑になりやすく、分野内外の人にもわかりやすく要点を理解してもらえるよう発表技術を磨く必要があると感じた。
本会議に出席した成果は、マイクロ工学分野最上位の国際会議であるMEMS 2023で研究発表および意見交換を行ったことである。自身の発表テーマに関して分野内外の研究者と議論を交わしフィードバックを得る他、マイクロ工学分野における最新の研究を学ぶことができた。今後は、得たフィードバックや学びを自身の研究内容に生かすとともに、MEMS 2023での発表内容を基に国際論文誌への投稿を行う予定である。
また、MEMS 2023への参加を通じて、国際的な研究者としての資質を磨くことができたと考えている。私は将来、海外の大学・研究施設で研究活動を行い、高性能な伸縮電子デバイスの開発などを通じて電力の効果的な利用を推進し、経済発展や生活向上に貢献することを目指している。今回のMEMS 2023での発表・議論を通じて、自身の研究内容や意義を国際的に発信する力を身に着けることができたと考えている。
さらに、MEMS 2023において、同年代の優れた研究者と積極的に交流を行い、切磋琢磨しあう仲間を得ることができた。同年代の学生が表彰式で最優秀賞を受賞していた際には、自身もよりいっそう努力して成果を上げたいと強く刺激を受けた。
最後に、この度の学会参加にあたり多大なご支援をいただきました一般財団法人丸文財団に厚く御礼申し上げます。