米国電気学会IEEEが主催するInternational Ultrasonics Symposium 2022は50年以上の歴史をもつ超音波技術(医用超音波、圧電材料などの研究開発)に関する国際会議であり、医用超音波分野が題目の半分以上を占め、採択率約3割・約1,000件の発表題目がある。参加者は学生(海外の多くはPh. D学生)・研究者・産業界の専門家であり、分野横断的議論が行われる。口頭・ポスター発表や基調講演のみならず、近年は専門分野の若手キャリア形成のための学生向けパネルディスカッション、女性研究者のキャリア形成セミナー、若手研究者のテーマ挑戦プログラムコンペなどのイベントも多くある。
世界中の超音波エレクトロニクス分野の専門家が一堂に会し、アジア、欧米、欧州の地で順に隔年開催される。本年はイタリアでの開催であり、超音波数値シミュレーションや造影剤、4次元の超音波イメージング技術など世界的に筆頭する欧州の専門家が多く参加する。申請者や在籍グループが専門とする情報工学、生体組織の機能解析の世界動向を持ち帰る機会として現地参加が重要であると考えた。オンライン・現地のハイブリッド開催だったが、欧州のみならず、欧米・アジアからの現地参加者も多くいた。
申請者は超音波信号解析技術の研究に従事し、開発した解析技術を生体軟組織の性状評価に新たに適用してきた。研究成果は既存手法の定性的評価および侵襲性を改善し、組織性状の定量的評価および患者の負担軽減に寄与する代替技術として有用であり、現在は主に生活習慣病に至る前や罹患時の血液性状の非侵襲計測手法を開発している。本国際会議での発表題目は「Ultrasonic backscatter coefficient analysis with clutter filter for ultrafast blood characterization(クラッタフィルタを考慮した超音波後方散乱係数解析による血液性状評価)」である。
実生体の脈管超音波計測では、赤血球からの超音波散乱波成分と周囲組織や血管壁からの定在波成分が血管内腔に混在するため、血液からの信号を詳細に解析するためには、定在波を抑制し血液信号を強調するフィルタリング処理が必須であるが、フィルタ特性が開発した信号解析法に及ぼす影響を検証できていない。そこで、実血液の流路循環および超音波観察システムを新たに構築し、生理食塩水(サラサラ)または自家血しょう(ドロドロ)で伸展したブタ赤血球の定常ずり速度依存性を高速超音波撮像により観察した。適切なフィルタ特性を調整することで、低ずり速度域における超音波周波数の変化が示され、これまでに世界的に検討されていないフィルタ適用下での超音波散乱体の大きさ(赤血球凝集度=ドロドロさ)の評価可能性を得られた。ディスカッションの場では、実験およびin vivoデータでの取り組みを評価された。
近年のオンライン参加の画面越しの議論も経験した上で、緊張感、身振り、表情をもった現地でのコミュニケーションの重要性を感じていた。国際的多様性の中で、人と人との熱を持った対話を改めて目の当たりにし、申請者の発表題目についても分野内外の専門家とディスカッションを行うことができ、今後の研究・教育活動に還元できるきっかけを作ることができた。
本国際会議は超音波技術の最新研究・技術について深い議論を行う場であるため、申請者の研究成果の新規性やインパクトについて国際的にアピールすることができた。申請者や在籍グループや国内研究の立ち位置を世界的動向と比較しながら改めて俯瞰し、専門家としてのキャリア形成や国内の医用超音波分野発展に寄与する一員として活動するきっかけを改めて得られた。研究の舵を切る専門家のみならず、Ph. D.学生からポスドク研究員,若手助教も多く参加していることから,若手研究者との交流により次世代の分野発展を担う海外共同研究者の人脈作りにつながったと期待される。
本国際会議への参加にあたり多大なご支援を賜りました丸文財団に心より感謝申し上げます。