RAILWAYSは鉄道技術全般を対象とする国際会議であり、会議の対象は車両、地上構造物、環境とエネルギー、信号・通信システム、運行・運用、経済・経営戦略、新技術の鉄道への応用、メンテナンスと鉄道システムの構築、運用に関わるあらゆる分野からなる。2012年より2年毎に開催されている。会議の母体となる論文誌、団体として、Elsevier社のThe International Journal of Railway Technology, Journal of Rail Transport Planning & management, Transportation Engineeringなど鉄道技術分野で著名な学術論文誌があり、発表を基礎として論文誌に投稿することも奨励されている。
開催地はフランス南部、地中海沿岸のモンペリエであり、期間は2022年8月22日から25日であり、22日はプレナリーセッションのみ、23-24日は全日、25日は半日のセッションがあった。発表件数は約300であり、最大で同時に4つのセッションが設けられていた。うち、日本人の発表件数は20程度であった。
研究テーマは鉄道車両の自動運転に対する学習を用いた高性能な運動制御であり、本発表は、このテーマを実現するための自動運転の駅間走行速度パターンを、学習に適したパラメータを用いて少ない計算量で計算する手法の提案についてである。走行パターンの動的な生成、修正は、車両運動制御において車輪が滑らずに走行するためには加速度に制約が生じ、強いフィードバック制御が困難であることから、自動運転の高度化において重要な役割を持つ。本研究では乗り心地を支配する加速度およびジャークの制限と、路線形状に依存する速度制限、勾配による加速度制限を制約条件とし、停車駅の直前の制御開始地点において毎回ばらつくブレーキ開始速度を入力に対し最小時間で定位置停止に至る走行パターンの軽量な設計手法を提案する。提案法は乗り心地と速度制限による安全性を保証し、かつ高速に停止パターン生成を実現し、最大加速度の学習に基づく制約条件の更新により、自動運転の環境変動に対する柔軟性向上を実現するための基礎手法となる。
討論の内容は2点あり、一方は自動運転制御のための車両の速度、位置情報を取得する頻度について、他方は乗り心地の保証手法についてであった。
前者については、本手法はブレーキ開始位置における速度の1点のみを用いて速度軌道を計算し、実際の運転に用いる場合は、この速度パターンから車両の力学特性を逆算した制御入力を用いること、フィードバック制御が困難であるため、なるべく車輪の空転などの環境の影響を受けないための速度パターンを予め準備することを説明し、概ね受け入れられた。後者については、日本の鉄道事業者および鉄道に関する研究機関において人間を対象とした実験が行われ、車両の加減速に関する人間の感じる乗り心地の評価は加速度の最大値とジャークの最大値の重み付き和で制限される、つまりジャークの最大値と加速度の最大値を制限することで保証できることを説明した。会議の出席者の大半を占める欧州の鉄道では、車両の振動を除く加減速に対する乗り心地の保証方法について現在も結論が出ず、盛んに研究が行われていることが窺われた。
新型コロナウイルスの流行がある程度落ち着いて対面での国際交流が再び行われるようになって以来、3年ぶりの対面の国際会議であった。ヨーロッパを始めとする多くの国の鉄道技術者、研究者と発表、質疑を通じて議論を交わし、特に興味を持った発表者については知人とすることができ、人的交流の面で実りあるものとなった。
鉄道の分野で日本は新幹線を始めとして世界一の技術と国内では喧伝されているが、国際会議における日本の鉄道のプレゼンスはそれに見合わず低いように感じられた。ヨーロッパやアジアの鉄道技術の進展は目覚ましいものがあるが、日本の構築したものとは異なるものであり、新技術に対する国際規格などの争いで、独自技術となる格好の日本が不利になるだろうと感じた。鉄道技術について団結してルールを作ることに長けたヨーロッパとそれに追随する中国、インドなどの新興国という構図が見て取れた。
また、世界では、旅客鉄道だけでなく、貨物鉄道にも非常に注力していることが確かめられた。貨物鉄道については、自分自身の研究テーマとしようとして、日本では貨物鉄道の存廃が問われているところで需要がなく研究テーマ化の困難に当たった経緯があり興味を持って様々な発表を聞いたが、自動運転制御、最適化手法の応用など様々な研究開発がされていることを知り、鉄道技術の発展から脱落するのではないかと危機感を持って、会議を通して知った技術の情勢を今後の研究に役立てられないかと感じた。