本研究集会は、光科学技術における国際学会としては世界最大級規模の国際学会である。コロナウイルスが流行する以前は、4,200人もの研究者が参加し、3,000もの口頭発表が行われていた。国内外の光計測・光エレクトロニクスや電気・電子デバイス材料に関連する研究者に自身の研究を報告し、交流することができるのは、本研究集会だけであるため、本会議の重要性は高い。また、講演の8割が著名な先生らによる発表である。その中で、若手研究者である申請者が口頭発表を行うことは、自身の研究だけでなく、研究者として自身をアピールできる絶好の機会である。申請者の研究を元に、様々なメタマテリアルの光学特性評価や、バイオセンサー開発への展開が期待できる。
尚、本学会は今年度から完全対面で開催されるため、発表には渡航する必要がある。実際には、多くの研究者が参加していた。コロナ前ほどではないが、それでも6割程度の参加者が対面で参加していた。
申請者は、超解像ラマン顕微鏡を用いたメタマテリアルの光学特性解析に関する成果を報告した。メタマテリアルに特定の波長の光を入射すると、金属微細構造と光の共鳴効果により、高い強度をもったナノサイズの光を金属構造上に生成することができる。この特徴を活かして、高感度のバイオセンサーや光熱変換デバイスの開発が近年盛んに行われている。しかしながら、メタマテリアルを構成する各金属ナノ構造の光学特性(電場増強度、共鳴現象の波長依存性)を解析する手法がないため、電子デバイスの新規開発に向けたメタマテリアル構造の最適化は、あまり進んでいないのが現状である。本講演では、申請者が長年開発してきた超解像ラマン顕微鏡を利用し、メタマテリアルのナノ光スポットの空間分布と共鳴効果の波長依存性について解析した結果を報告する。メタマテリアル内の金属ナノ構造体のエッジ部分に光が強く局在していることや、構造毎に共鳴波長が10nm程度のばらつきがあることを発見した。
講演では、上記の光学特性評価の結果に加えて、申請者が開発したメタマテリアルのバイオセンサー応用に向けた取り組みについても議論した。
本学会の参加者は、バイオセンサーや光熱変換デバイスに関連する光エレクトロニクス分野の方々はもちろんのこと、生命科学や有機半導体分野など多岐にわたる分野の研究者が参加する。上述の通り、申請者の成果は、高性能電気・電子デバイスの材料として期待される人工光学材料「メタマテリアル」の強力な光学特性評価法を実証したことである。これまで困難であったメタマテリアルの詳細な光学特性を明らかにできる本成果を発表したことで、メタマテリアルデバイスの実用化に向けた、メタマテリアル構造の最適化や新たな光学特性の発見に繋がる議論ができた。また、申請者と同じセッションで講演を行なった研究者は国際雑誌Nano Lettersの編集者でもあり、論文投稿に向けたみのりのある議論も行うことができた。これは、対面学会でしか行えないことであり、改めて対面で参加することの意義を実感した。
また、申請者はメタマテリアルを活用したバイオセンサー開発にも近年精力的に取り組んでいるが、当該分野の動向やセンシング技術のノウハウを完全に把握できていない。本学会では、バイオセンサー分野の研究者と交流の機会を得ることができたため、高感度バイオセンシング技術の開発に有用な知見を得ることができた。また、超解像ラマン顕微鏡で有名なETHの研究グループや、超高感度赤外分光法で先駆的な成果を挙げているEPFLの研究グループの若手研究者と繋がることができ、第一線で活躍する同世代の研究者から多くの刺激を受けた。
コロナウイルスによる航空運賃の値上げと円安の影響が大きく、従来の2倍ほどの費用がかかった。本助成を受けなければ、渡航することは極めて難しかったため、大変感謝しております。