国際交流助成受領者/国際会議参加レポート

令和4年度 国際交流助成受領者による国際会議参加レポート

受領・参加者名
井上 元
(東京都立大学 大学院システムデザイン研究科 航空宇宙システム工学域)
会議名
73rd International Astronautical Congress (IAC 2022)
期日
2022年9月18日~22日
開催地
パリ、フランス

1. 国際会議の概要

International Astronautical Congress (IAC) とは、国際宇宙連盟 (IAF) が主催し、年に1度開かれる学術会議である。IACの目的は宇宙コミュニティの枠を超えて宇宙に関わる多くの人や団体がつながる機会を提供することであり、“Space for @ll”というスローガンのもとに世界中から多くの研究機関や大学、企業などが、宇宙活動についてすでに得られた学術的成果や将来の計画を発表し今後の活動のため交流を図る。

2022年の本大会では5日間にわたってテクニカルプログラム、プレナリープログラムといった学術発表の場が設けられ、さらに250以上の宇宙開発研究機関や宇宙関連企業などが保有する技術やサービスを披露するべく展示を行った。会議への総参加者数は6,500人と非常に多く、テクニカルプログラムについては97カ国から4,800本のアブストラクトが提出され史上最大の規模となった。

会議はフランスのパリにあるParis Convention Centreにて開催され、フランス国立宇宙研究センター (CNES) も主催者として加わった。

次回の会議はアゼルバイジャンのバクにて2023年10月2~6日に行われる予定である。


Paris Convention Centreの広場

Paris Convention Centre内部1階

開催地について
IACが開催されたフランス・パリは世界有数の観光地であり、エッフェル塔やノートルダム大聖堂などの歴史的建造物やルーブル・オルセーをはじめとする数多くの美術館が有名である。石造りの街並みがとても綺麗で、路上での絵の販売やギターの弾き語りが多く行われているなど芸術の町であった。


エッフェル塔から見たパリの夜景

エッフェル塔

ノートルダム大聖堂

2. 研究テーマと討論内容

研究テーマ
科学探査衛星の、月面上空3.5km~15kmの航行中における、月面上の自己位置推定手法に関する研究を行った。現在の月探査では、特定の地点にフォーカスした科学的探査を行うために衛星のピンポイント着陸が目指されている。そのために高精度の誘導航法が必要であり、100mオーダーの衛星の自己位置推定が求められる。また無人の宇宙機が活動するため必要となるデータ量や計算量は少なく、燃料の消費を抑えるために処理が素早いほうが好ましい。さらに宇宙空間では想定外の外的要素に対処する必要があるため、高いロバスト性が必要である。
これらの要求を満たす手法として、地形相対航法が考えられている。近年の探査機によって獲得された非常に詳細な月面情報からデータベースを作成し、衛星が撮影した月面画像とオンボード上のデータベース情報を照合して自己位置を推定するという手法であり、探査機の計算量やロバスト性の改良を目的として研究されている。JAXAにて進行中のSLIMプロジェクトでは、パターンマッチングという画像認識技術の考え方を応用した、クレータの中心座標で構成される線分情報を用いた手法が採用予定である。衛星が撮影した月面画像に映ったクレータ群から選択した2つのクレータから成る線分と同一の線分を、周囲のクレータの中心点座標を評価値としてデータベースから探し出す。この手法は前述の条件をバランス良く満たす。
本研究ではさらなる位置推定処理の高速化を達成するために、クレータの中心座標に加え大きさ情報を用いてこの手法を改良した。撮影画像内で選択した2つの線分用クレータの長半径または短半径の大小と中心座標の上下位置関係を比較することで位置推定における処理量を削減し、処理を高速化する。提案手法と従来のSLIMの手法で処理時間を比較するために、シミュレーションと月面模型を用いた実験を行った。その結果、高確率で処理時間の短縮が達成され、またクレータ検出に問題が無い場合には多くのパターンで100m以下の誤差となる推定精度であったことから、提案手法の有用性を確認できた。

討論内容
テクニカルプログラム内のInteractive Presentationという形式のセッションにて、事前に作成したiPosterという電子ポスターを用いて発表および討論を行った。
研究の主目的は衛星の自己位置推定アルゴリズムの処理速度の高速化であるため、発表時はこれに重きをおいて研究成果を伝えた。この成果については発表の段階で公聴者の方々に納得していただけたと感じた。一方、位置推定の精度については時間の関係上あまり説明できなかったため、これに関する質問をいただいた。「従来法と比べて提案手法は位置推定の精度はどうなっているのか」という質問に対し、「本研究で提案した手法は従来法のアルゴリズムの無駄な部分を省くものであるため精度はほとんど同じである。従来法と同様の精度で位置推定に要する時間を短縮することが提案手法の利点・特徴である。」という回答をした。


Interactive Presentation会場にて自身のiPosterと共に

Interactive Presentationの様子

3. 国際会議に出席した成果
(コミュニケーション・国際交流・感想)

Interactive Presentationについて
“Category B - Applications and Operations”というInteractive Presentationの賞の最終候補にノミネートされた。Interactive Presentationでは、参加者計800人の中からA~Eの5種類のカテゴリーの賞が選出される。まず800人の中から5つの賞の受賞候補者80人が選出され、授賞式に招待される。以下のPDFファイルがその80人のリストである。
https://www.iafastro.org/assets/files/events/iac/2022/preselected-ip-competition-for-website.pdf
授賞式において、さらにこの中から各賞に3人ずつ最終ノミネート者が発表され、その中から賞の受賞者が発表される。私は受賞とはいかなかったが、B賞の最終ノミネート者の3人に選ばれることができた(下写真)。これが私のInteractive Presentationにおける成果である。


Interactive Presentation授賞式にて、
Category Bの表彰中の様子
(登壇者の一番右にいるのが自分)

宇宙関連
普段関わることができない他大学や研究機関に所属している方々に自身の研究を見ていただくことで、新しい視点からの意見を取り入れることができた。また現在興味を持っている分野の最新の研究に触れることで、今後の活動の参考にすることができた。研究以外の面では、展示において世界中の企業や機関が何をしているのかを直接聞くことで、将来の進路の視野が広がった。


プレナリープログラム
(この写真はJames Webb Space Telescopeに関する発表)

展示ブースの様子

プレゼンテーション能力について
発表者は学生よりも大学教授や機関の方など社会人の方が多く、経験のある方のプレゼンを実際に見ることで伝える技術の大切さと自身の稚拙さを改めて認識することができた。特に、たまたま知り合うことができたケンタッキー大学の教授の方には練習に付き合ってもらったりプレゼンを見せてもらったりして、非常に多くを学ぶことができた。

英語について
普段の生活から学会まで全て英語で会話していたため、実践的に英語を使う練習になった。積極的に色々な人とコミュニケーションを取ることを意識していたが、やはりネイティブ同士の会話に入り研究の複雑な内容に英語で対応するのは難しかった。この活動を経て、将来に向けて英語を学習する必要性を痛感した。

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