67th Annual Meeting of the Biophysical Societyは、生物物理学や生化学における生体分子や生命現象の分析技術に関する世界最大規模の研究集会であり、世界中から5,000人以上の学術・行政・産業界の専門家が集まり、800件以上のポスター発表と500件以上の口頭発表が行われる。
私は「De novo design of β-barrel nanopore with Gly-kink towards single-molecule detection」というタイトルで60分間のポスター発表を行った。ナノポアセンシングとは、脂質二分子膜中で直径数nmの孔(ナノポア)を形成する膜タンパク質をセンサーとして用いることで、生体分子を迅速・簡便・ラベルフリーに検出可能な手法である。一方でその検出感度はナノポアの形状や化学的性質に依存的であり、幅広い分子検出へ応用するにあたり、新規ナノポアの構築が求められている。そこで当研究室ではこれまでナノポア形成βヘアピンペプチド(SV28)の設計を行ってきた。SV28は脂質二分子膜中で構造安定なβバレルナノポアを形成したが、形成したナノポアのサイズにバラツキがあった(φ= 1.7-6.3 nm)。異なるサイズの標的分子を検出可能である点では有用であるが、特定分子の効率的な検出には均一サイズのナノポアが望ましい。そこで本研究では、SV28の再設計により均一サイズのナノポアの構築を行った。私は、計算機を用いたタンパク質設計分野で既に確認されている、βバレル構造の安定化に寄与するGly-kinkに注目した。SV28ナノポアに1つの最安定構造をとらせることができれば、ポアサイズは均一になりうると考え、Gly-kinkをSV28に導入したSVG28を再設計した。その結果、SVG28(φ= 1.7 nm)はサイズ均一なナノポアを形成した。また、SVG28ナノポアを用いてペプチド検出・1アミノ酸識別を行うことができた。
発表では、ナノポア研究の世界的権威者を含む様々な分野の研究者と、ナノポアを用いた1分子検出研究の最前線についての議論を行うことができ、今後の研究に応用できそうな最新の知見も得られた。
人工的に構築したナノポアを用いて分子検出を行うという自身の研究目的についての報告はごくわずかであり、国内での研究発表では同様の研究を行っている人を見つけるのは困難である。そのため、多岐にわたる分野の研究者が集う本学会で研究発表を行うことにより、多くの研究者からの新たな知見や助言をいただくことができ、同じナノポア研究者とのディスカッションが行える最高の機会を得ることができた。
またポスター発表について、英語での研究発表の経験がなかったことから、入念に準備を重ね、自身のテーマについて掘り下げて考えていった。その結果、研究背景についての理解が非常に深まり、学会準備をきっかけとしてより研究や英語学習への意欲が高まった。
最後に、本国際学会への参加にあたり、貴財団には多大なるご支援をいただきました、厚く御礼申し上げます。