Materials Research Society (MRS) はエネルギー材料やナノ材料から、データサイエンスを活用した材料開発へのアプローチまで、様々な材料における研究が報告される国際会議である。開催地の米国マサチューセッツ州ボストンはハーバード大やマサチューセッツ工科大 (MIT) をはじめとする有名大学が数多く存在する学術都市である。また、イギリスからの移民によって栄えた一方、アメリカ独立戦争の開戦の地でもあり、歴史を感じさせる観光地でもある。スポーツや芸術も盛んであり、美術館や音楽ホールが存在するほか、メジャーリーグのボストンレッドソックス、NBAのセルティックスなど名門チームの本拠地でもある。
今回参加した国際会議では、6日間にわたって8つの分野(Broader Impact (BI)、Characterization (CH)、Materials Computing and Data Science (DS)、Electronics, Optics and Quantum (EQ)、Energy and Sustainability (EN)、Nanomaterials (NM)、Soft Materials and Biomaterials (SB)、Structural and Functional Materials (SF) )において活発な議論が行われた。著者はデータサイエンス系のセッションや環境材料に関する研究報告を中心に聴講したが、新たな高機能材料をAIを活用して探索する研究など、興味深い報告が多数なされた。また夜にはポスターセッションが行われ、飲み物や軽食を取りながら研究者同士の活発な交流が行われた。
次回のMRS(2023年4月10日~14日)はカリフォルニア州サンフランシスコでの開催が予定されている。
今回は「Visual Explanations for the Generation of Dislocation Clusters in Multicrystalline Silicon Using Gradient-based Techniques」と題して口頭発表を行った。
多結晶材料において、結晶欠陥の存在は材料の電気的特性や品質に大きく影響する。そのため、結晶欠陥の発生のメカニズムを解明し、コントロールすることが重要だが、多結晶材料は多くの場合非常に複雑な組織を持ち、系統的な分析が困難である。
本研究では系統的かつ網羅的な分析が困難な多結晶組織において、機械学習を用いて統計的に重要な情報を抽出する手法について報告した。主要な太陽電池材料であるシリコン中の結晶欠陥を題材に、サンプル表面の光学像から結晶欠陥の発生を予測する機械学習モデルを構築した。さらに、構築し訓練したモデルの内部構造を可視化し、実際にモデルが入力画像中のどのような部分に注目して判断を行っているかを明らかにした。この取り組みにより、光学像中のどのような組織情報が転位の存在に寄与するか参照することが可能となった。
このような研究分野は機械学習やAIにおける説明可能性や信頼性を向上し、活用の幅を広げるだけでなく、我々がAIの補助を受けて新たな知見を獲得することを可能にするものだと期待される。今後の研究では、組織情報の詳細な分析を行い、欠陥の発生機構の解明に繋げたいと考えている。
本発表には、データサイエンスを活用した材料研究を行う各国の研究者の方が聴きに来てくださった。提案手法に大変興味をもっていただき、今後の研究の展望や応用に関する質問を多くいただいた。
今回の学会では、自身の口頭発表を行い研究者の方々と討論したほか、データサイエンスの分野に長く携わっている著名な研究者の方の講演を直接聞くことができた。機械学習の活用における様々な事例に触れることができ、また自身の今後の研究において留意すべき点についても理解を深めることができた。また、ポスターセッションの会場では同年代の研究者と近い距離で話すことができ、大変有意義な時間となった。
さらに会議外の時間でも、近隣の大学を訪れ、国際的な学術都市の雰囲気を直接感じることができ、非常に貴重な経験となった。ボストンの市民の方々はとてもフレンドリーで、街の中でも英語でコミュニケーションを取る機会に恵まれ、英語力を向上することができたと感じる。
最後に、今回の国際学会に参加するにあたり、ご支援いただいた一般財団法人丸文財団様に心より感謝申し上げます。