丸文財団国際交流助成にご選出いただき、Pacifichem 2021に参加した。Pacifichemはアメリカ、カナダ、日本、中国、韓国、ニュージーランド、オーストラリアなど、環太平洋の多数の国の化学会の共同主催による国際的な科学会議である。
1984年の設立以来、約5年に1度開催されてきた国際会議であり、第8回である今回の会議は2020年に開催予定であったが新型コロナウイルス流行の影響により1年延期され2021年に開催となった。開催期間はハワイ時間で2021年12月16日~12月21日であった。
また例年はアメリカ・ハワイ州で開催される本会は新型コロナウイルスの流行により、オンラインでの開催となった。
本会議では「Orbital rotation of a nanoparticle using plasmonic multimer structures」というタイトルでポスター発表を行った。
金属ナノ構造を数nm離して配置したナノギャップアンテナは通常では不可能なほど極小な領域に光を閉じ込め、増強可能である。近年このような性質を利用した光によるナノ物質の操作が注目を浴びている。
これまでの研究では主に金属ナノ構造を2つ用いた二量体により直線偏光の光を閉じ込め、閉じ込められた光の強度勾配によるナノ物質の捕捉がなされてきた。しかしこの手法ではナノ物質の操作を行うのは困難である。そこで本研究では金属ナノ構造を3つ用いた三量体を構築し、角運動量を持つ光を閉じ込めることにより、角運動量によるナノ物質の精密操作を行った。ここでの問題は入射光から、光が閉じ込められる局在場へ角運動量がどのように伝達されるか不明であり、極小領域での角運動量の制御ができない点であった。
そこでシミュレーション計算で各位置での光の場を計算し、解析することにより、入射光から局在場への角運動量の伝達メカニズムを明らかにした。
さらに実験的には三量体に角運動量を持つ円偏光を入射することで、局在場の角運動量によりナノ物質の精密な軌道回転運動の制御が可能であることを示した。
発表を通しての議論では、角運動量の伝達メカニズムには難解で、新規な理論が含まれるため、その条件や理論の妥当性の確認に多くの時間を割いた。またこれらのメカニズムを用いた角運動量制御による将来的な応用へのビジョンについての共有を行った。
ポスター発表では口頭の発表と異なり、質疑応答の時間が決められていないため、長時間議論を行うことができた。そのため口頭発表で時間的な制約でできないような深いところまで議論ができ、非常に濃密な経験であった。
発表に関してはオンライン開催のため、各国同士の時差によりセッション参加者の多くが日本人となってしまったが、他セッションで聴講することにより多くの国の参加者と交流することができた。今後もオンサイト、オンラインにかかわらず国際会議に積極的に参加し、国際交流を図り、多様な価値観と視点を得ていきたいと考えている。
末筆ではございますが、本国際会議への参加にあたり貴財団よりご支援賜りましたことに、心より感謝申し上げます。