Society for Neuroscience主催する Neuroscience 2021 に参加しました。当該分野では世界最大かつ最も権威がある学会となっています。第50回目となる本会議は11月8日~11日の4日間、オンラインでの開催となりました。各参加者が動画でのポスターの発表を行った後、約10名の参加者でディスカッションを行いました。
ヒトを対象とした非侵襲的な神経生理計測や心理計測などを駆使したヒトの知覚メカニズム、特に音楽知覚メカニズムの解明に関する研究を行っています。卒業研究で取り組んだテーマは、“脳磁界計測によるメロディー輪郭知覚特性の解明”です。ヒトはメロディーを知覚する際、個々の楽音の変化を認識すると同時に、音列全体の構造を群化・パターン化することにより、ゲシュタルト的輪郭としても認識していると考えられています。しかし、メロディーの輪郭的知覚に関する脳機能研究は極めて限定的で、その処理過程や脳内責任部位には不明な点が多く残ります。一方、長期にわたる音楽経験者においては、脳の解剖/機能が変化するといわれており、メロディーの輪郭的知覚においても特異な特性を示す可能性があります。筆者は、見過ごされてきたメロディーの輪郭知覚メカニズムの解明を目指して、音の弁別を反映する脳磁界反応(ミスマッチ・フィールド)の計測に取り組みました。メロディーに対する輪郭的知覚と音程知覚、音楽経験者と未経験者を比較することで、メロディーの輪郭的知覚に係る脳内情報処理とその可塑的変化を見いだすことに成功しました。これらの結果は、音楽経験による脳機能の変化を示すエビデンスであると同時に、音楽知覚における群化・輪郭知覚の重要性を示すものであり、音楽にまつわるヒトの情報処理機能の解明につながる知見が得られたと考えられます。
音楽経験者(10年以上のクラシック音楽の演奏経験者)と未経験者を対象に、メロディーの輪郭変化と音程変化に対する脳磁界反応(音の弁別を反映するミスマッチ・フィールド)の計測を行った。5音からなる音列の第3音の音程を上下させることで、標準音列と5種類の逸脱音列を作成した。全頭型脳磁界計測装置を用いて、逸脱音列に対して誘発されるミスマッチ・フィールドを観察した。その結果、音楽未経験者では第3音の音程変化が増大するほど大きなミスマッチ・フィールドが観察されていたのに対し、音楽経験者においては第3音の音程変化よりも音列全体の輪郭の変化に対してより大きなミスマッチ・フィールドが出現した。また、音楽経験者では非経験者に比べてミスマッチ・フィールドの潜時の短縮も認められた。これらの結果は、音楽経験により音列を郡化して捉える能力が高まったこと、音情報の処理速度が向上したことを発表した。
今回の参加予定の研究集会は私にとって初めての国際学会での発表の場となリました。以前から海外での研究活動に興味を持っており、工業高等専門学校在学時からホームステイや語学学校への短期留学、フィリピンのNPO法人への国際協力など、英語圏の国に実際に出向き、英語能力の向上を図ってきました。所属研究室には外国籍の研究員がおり、普段より英語で研究について議論を行なっており、その成果を発揮できたと考えます。さらに、英語の論文や書籍を読む機会が増えたことや、意欲的に英語学習に取り組んだことで、TOEIC Listening & Reading のスコアを向上させ ました(815点)。今後は英語で議論する能力を十分につけることが課題です。今回のような権威ある学会で海外の一流の研究者と議論する経験が、英語能力向上のモチベーショ ンとなるだけでなく、世界に認められる研究とはどのようなものなのかを学ぶ機会となり、今後の研究活動の発展につなげることができる経験であったと考えます。