この度、丸文財団 国際交流助成にご選出いただき、64th IEEE International Midwest Symposium on Circuits and Systems (MWSCAS 2021) にて研究発表を行った。MWSCASは米国電気学会の回路とシステム(CAS)ソサイエティにおいて最も長い歴史を持つ会議である。今回は第64回であり、2021年8月8日から11日まで、ミシガン州立大学の主催により開催された。次回は日本の福岡県で2022年8月7日から11日まで、福岡大学の主催により開催される予定である。
今年度は新型コロナウイルス感染対策のため、オンラインですべての発表が行われた。また例年と異なり、ポスターがなく、すべて口頭発表であった。事前収録の発表動画やZoom会議のURLにはCONFluxと呼ばれるバーチャル・プラットフォームを通じてアクセスする形式であった。この開催方法は5月に開催された同ソサイエティの旗艦国際会議であるISCAS 2021とほぼ同様であった。当会議は回路とシステムに関する48セッションの幅広い分野を含んでおり、発表件数は技術プログラムを含めて272件であった。本発表は「Wireless And Microwave Circuits And Systems I」のセッションに採択された。
発表内容
高精度なインダクタレス広帯域能動バラン回路について発表した。能動バラン回路は入力信号から、位相が互いに180°異なる2つの信号(差動信号)を生成する回路のことであり、多くの通信用アプリケーションで用いられている。能動バラン回路の設計においては精度と動作速度の間や回路面積と動作速度の間にトレードオフが存在する。前者のトレードオフ(精度と動作速度)は高い周波数でトランジスタ等の寄生素子のイミタンスが大きくなり、差動出力の振幅と位相にずれ(偏差)が生じることに起因する。本研究では利得・位相偏差同時補正技術(MPCCT)と呼ばれる回路技術を用いて偏差の低減を図った。特に本研究ではMPCCTにおける補正の効果と回路の動作安定性の関係を解析的に明らかにした。また後者のトレードオフ(回路面積と動作速度)は高速化のために従来の能動バラン回路において、大面積を必要とする誘導性素子が用いられていていることに起因する。本研究ではMPCCTで用いられている正負の帰還ループを動作周波数帯域の拡大にも利用可能であることを明らかにし、帰還を用いない場合と比較して利得帯域幅積が約39%向上することを示した。また解析と回路シミュレーションによりMPCCTに1つのキャパシタを挿入することにより、偏差補正の効果と帯域拡大の効果を同時に向上可能であることを明らかにした。
質疑応答
「Balun-Aの部分に用いているカレントミラー回路によってバランの出力抵抗に差が生じるため、偏差が増大するのではないか」との指摘を受けた。これに対して「バランの出力部に挿入しているバッファ回路の入力インピーダンスがバランの出力抵抗と比較して十分に大きいため、本設計ではバランの出力抵抗の差は問題にならない」と回答した。Balun-A部にカレントミラー回路を使用する利点と欠点については本発表の中で明確になっていなかったため、今後の課題としてBalun-A部の解析を進める予定である。
私が国際会議で発表を行うのは今回で3度目であった。以前の国際会議と比べて今回は質疑応答で明確に回答でき、自信に繋がった。また第一線の研究者から有益な助言を得ることにより、今後の研究の指針が得られた。当初はオンライン参加のため時差の影響を懸念していたが、すべての発表を事前収録のオンデマンドビデオとしても聴講できたため、情報収集も十分に行うことができた。特に私の研究分野に近い光ファイバ送信器用回路やVCSELドライバ等の発表が複数件あり、最先端の情報を得ることができた。一方で懇親会等でのフランクな交流はオンライン開催では十分ではないと感じた。今後現地開催の国際会議が再開した際には、国際交流も積極的に行いたいと考えている。
末筆ではございますが、今回の国際会議参加にあたり、貴財団よりご支援をいただきまして心より御礼を申し上げます。