この度、丸文財団国際交流助成に選出いただき、Pacifichem 2021に参加した。Pacifichemは、環太平洋地域の国々から研究者が一堂に会する化学系の国際学会であり、5年に1度開催される。例年参加者は1万人を超え、発表分野は有機・無機化学、計算科学、光学、AI・ビッグデータなど多岐にわたる。本来は2020年の開催予定であったが、COVID-19の流行により1年延期のうえ開催が実現した。本会はハワイ時間で2021年12月16日~12月21日まで、計6日間にわたって開催された。
通常はアメリカ・ハワイ州にて開催されるが、今回は感染症の影響から全ての発表がオンラインで行われた。オンライン発表のプラットフォームにはzoomが使用され、リアルタイムで配信される発表を視聴する方法と、あらかじめ録画された発表をオンデマンド形式で視聴する方法の2種類から成った。
図1 国際学会のプラットフォーム
私は今回の国際会議で「Finding chiral nanogap antenna structures using inverse design」というタイトルでポスター発表を行った。
ナノギャップアンテナ構造は、ナノ(10億分の1)という非常に小さい領域に光を集め、増強することができる構造であり、ナノ光トラッピングや表面増強ラマン散乱などのナノテクノロジーの分野で注目を集めている。ナノギャップアンテナ構造は普通、直線偏光で励起されるが、今回は円偏光によって励起されるナノギャップアンテナ構造に着目した。さらに、左右の円偏光入射によってナノギャップ部における電場増強度に差が出るような、キラリティを有する構造の探索を行った。
このような構造はこれまでに知られていないため、本研究では先験的な知識を必要とせずに構造設計を行うことができるトポロジー最適化を用いた。トポロジー最適化を用いることで、人間の想像では思いつかないような形の構造をコンピュータの計算によって求めることができる。
結果的に得られた構造は3次元的に渦を巻いたような形状となった。また、導出された構造の電磁場応答をシミュレーションによって確認したところ、入射光の左右円偏光に対してギャップ部の電場増強度に差が出ることがわかった。
発表の中で構造の作製方法について議論を交わした。本発表で紹介した構造はナノサイズであり、厚さ方向に形状が変化するため既存の技術では作製が難しい。そのため実際の作製にあたっては、厚さ方向に形状が変化しない2次元構造体の作製やナノ領域における3Dプリンティング技術の研究が必要であるという認識を再確認した。
国際会議への参加とポスター発表はどちらも今回が初めてであったため、参加前は不安で一杯であったが、入念な準備を行ったうえで発表に臨んだため自身の研究について分かりやすく紹介できたと感じている。オンライン発表のため時差の影響があり、私の発表に関して議論していただいた方はいずれも日本人であったが、事前の練習において自分の英語力が未熟であることを痛感した。今後もこれに懲りず積極的に国際学会に参加し、世界中の研究者と交流を図りたいと考えている。
本国際会議の参加につきまして、貴財団よりご支援賜りまして、心より感謝申し上げます。