The 45th International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves (IRMMW-THz) は、赤外線・ミリ波・テラヘルツ波といった広帯域な電磁波領域に関する国際会議である。1974年に設立され、その規模は年々拡大している。高周波回路などのデバイス構造といった基礎分野から、イメージングや電磁波分光などのアプリケーション分野まで幅広い領域をカバーしており、30か国以上から多くの参加者が集まる国際会議である。今回で45回目を迎える本会議は、アメリカのニューヨーク州バッファローで開催される予定であったが、昨今の新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となった。約600件の発表(口頭発表約300件、ポスター発表約300件)があり、本発表は「Imaging and Sensing」のセッションに採択された。
研究テーマ
今回、「A stretchable wideband photo-thermoelectric wrap scanner sheet for wearable and noninvasive liquid quality monitoring」というタイトルで口頭発表を行った。研究の概要は、フレキシブルな光熱電センサーシートを用いて、チューブ内に循環させた液体の液質をパッシブに測定し、評価するというものである。本研究ではグルコース、タンニンという二種類の物質を水に溶かし、それぞれの溶液から放射される輻射を検出することで液質検査を行った。
近年、生体や液体自身が発する輻射信号を用いた非破壊・非侵襲計測が注目されていることを受け、本研究では当該技術の社会実装、たとえば長期的なインフラ配管への貼付けやストレスフリーな生体装着に向けた電磁波検出器の作製、および計測手法の確立に取り組んだ。具体的には、私達の独自技術であるカーボンナノチューブフィルム型フレキシブル電磁波検出器を高密度に集積させ、伸縮材料上に配置することで、高性能でフレキシブルなセンサーシートを作製し、配水チューブに貼り付けて二種類の溶液の液質計測を行った。計測はパッシブ計測法に基づき、溶液から放射される電磁波をセンサーシートで検出する方法で行った。一般的に、全ての物体からは温度に依存する広帯域な電磁波が放射されており、黒体輻射と呼ばれるが、溶液内に電磁波を吸収する物質が溶けていると、放射される黒体輻射の一部がその溶質によって吸収されるため、検出できる輻射が減少する。それによってセンサーで得られる応答が減衰することになり、液体内の溶質を検出することができる。今回、グルコース溶液とタンニン溶液に対して検査を行い、応答の減衰から溶質の存在を検出したことに加え、それぞれの吸収率の違いと応答の減衰量の相関を確認することで、二種類の溶質の特定に成功した。
今回行ったラベルフリーな液体のパッシブ計測は新規性が非常に高く、たとえば完全非侵襲な血液検査を含む将来的な医療分野などへの波及効果が期待される。
討論内容
今回、オンラインでの国際会議であったが、多くの人々が参加されていたように思う。私の発表にも70名近い方々に聴講していただき、緊張感を持って発表に臨むことができた。聴講においては、同じセッションに私の研究と似た手法で研究を行っている方の発表があり、新たな知見を獲得できた。
最後に、一般財団法人丸文財団からの支援のおかげで、本国際会議 IRMMW-THz 2020 に参加・発表することができました。心より感謝申し上げます。